3回表【分かってた】 ページ1
-五美
「…………私は、あつしさんを……」
「……」
「………選べません…」
小さく呟いてうつむけば、するりと私からあつしさんの手が離れた。
好きな人が泣きながら電話してきて、素直に部屋まで着いてきて、一緒にご飯も食べて。あつしさんが期待したのも分かる。
私がしたことは、最低なことだ。
あつしさんの優しさを自分勝手な都合で利用して、いざ確かめてみればあなたじゃないと突き放した。
目の前にいるあつしさんは一言も喋らない。
私は怖くて顔をあげられずにいた。
「……五美ちゃん」
「…っ」
「顔、あげて?」
長い沈黙を破ったのは、いつもの優しい声だった。
ゆっくりと顔をあげれば、いつものように目尻を下げたあつしさんがいて
「…わかってたから」と小さく呟いた。
「…最初から、分かってたんだ。僕を選ぶはずがないって」
「…」
「でも、本当に欲しいと思ったんだ。心から、君のことが」
あつしさんは「十四松に負けるなんてな」と力なく笑うと、私の頭を優しく撫でた。
「君の過去を聞いたとき、僕は何もできなかった。…だけど、十四松ならきっと君を支えてくれるはずだ」
「…十四松さん」
「あいつはいつも、君のことを優先するだろ?」
「っあ…」
『五美ちゃん、どこ行きたい?!』
『五美ちゃんどっか行きたいとことかある?!』
思い返せば、十四松さんはいつも必ず最初に私の希望を聞いてくれていた。
今更になって、彼のそんな優しさに気づく。
「…僕はいつも自分のこと優先で、かっこつけては君を傷つけて、どうにか十四松から僕に振り向かせようとそればっかりだった」
「……あつしさん…」
「今まで僕に付き合ってくれてありがとう」
「ありがとうなんて…私は、あつしさんの優しさを利用してしまったのに…」
あつしさんのありがとうの言葉に罪悪感で涙がこぼれ、両手で目を覆えば
ぎゅっと優しく抱き締められた。
「…それでも、嬉しかったから」
「嬉しかった…?」
「うん。
…最後に僕を頼ってくれて、ありがとう」
ゆっくりあつしさんは体を離すと、にこっと笑って優しく私の涙を指で拭った。
「ワイン飲んじゃって送れないから、タクシー呼ぶね」
「ありがとうございます」
「……ワインなんか、飲むんじゃなかったな」
「え?」
「ううん…なんでもないよ。顔洗っておいで」
何か呟くあつしさんに首を傾げて、私は洗面台を借りにお風呂場へと向かった。
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唯月 - 永久保存でお願いします(*^_^*) (2019年4月27日 19時) (レス) id: 0fc20caa15 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ - その後のお話が読みたい! (2017年8月21日 18時) (レス) id: 82bd22f655 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - かや梅さん» ありがとうございます!何回も最初から読んでくれたなんて本当嬉しいです…!ありがとうございます!番外編は考えていませんが、新作を準備していますので、もうしばらくお待ちください◎長い間読んでいただき、本当にありがとうございます! (2017年6月5日 14時) (レス) id: 23f0e390a2 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - ミサキ@さん» ありがとうございます!そう言ってもらえて凄く嬉しいです!!続きは考えていないのですが、新しい作品を準備中なので、そちらを楽しみに待っいてください(^^)再度読んで頂けるなんて…本当にありがとうございます! (2017年6月5日 14時) (レス) id: 23f0e390a2 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - 椿姫さん» コメントありがとうございます!無事に完結できました。その言葉が本当に嬉しいです。書いた甲斐がありました。長編でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございます! (2017年6月5日 14時) (レス) id: 23f0e390a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:M | 作成日時:2017年1月7日 14時