この手の隙間からこぼれ落ちないように【刀剣乱舞/だきしめて】 (ページ9)

今日:10 hit、昨日:8 hit、合計:5,912 hit

不動行光ページ9

「い゛っっっだあ！？」

ガツーン！と大きめな音がして、不動くんの叫び声が聞こえてきた。

どうしたの！？と急いで行けば、額の辺りを抑えて蹲る不動くんがいた。

話を聞けば、立ち上がる時にちょうど良い高さの棚に勢いよく頭をぶつけたらしい。

痛かったね、大丈夫？と額を撫でれば、彼の瞳にじわりと涙が浮かぶ。

ぼろぼろと涙が零れるのも気にせず、私の手を取った。

どうやら酔っているようだ。そこらへんに度数の強い日本酒が2本ほど転がっている。

彼はそのまま私の手を引っ張って、ぎゅっと抱きついてきた。

きっと目の前すらうまく見れないであろう状態で、私の首元へ顔を寄せる。肩が濡れていく。

｢信長様、｣

ぼそぼそと元の主人の名前を呼ぶ。私はどうしたらいいのかわからなくて、とりあえず不動くんの背中を撫でた。

えらいね、がんばってるね、なんてこの場に似つかわしくない言葉をなんとなく発した。

｢のぶ、ながさま…………あるじ｣

最後に、ぽそりと呟いて不動くんは寝落ちした。

思っていたより重いその体をなんとか抱えて、不動くんの部屋へ向かう。寝てもまだ涙は引きずっているようで、閉じられた目からとめどなく溢れてくる。

両手を使って抱えているから、不動くんの涙を拭うことはできない。……もし、両手が空いていても彼は私が彼の涙を拭うことを良しとしないかもしれない。

だけど、いつか彼の方からこちらに向き合ってくれるまで、根気強く付き合っていくしかない。私にはそれしか出来ないから、出来ることを精一杯やる。

私がいなくなってしまうまでに、彼と向き合って話すことができたらいいなあ。