66:秘策 ページ17
.
消えるドライブ。
通称、バニシングドライブ。
黒子の新技であるそれは、これ以上ないほど最高の形でお披露目となった。
緑間をいとも簡単に抜いたその技は、観客すらも魅了した。
第3Q、誠凛は再び追いつき息を吹き返す。
残すところ、あと最終Qのみ。
「A君、あと一つ、何か欲しいんだけど」
『わかりました、やりましょう』
残りの数分。
そんな中、わずかでも流れを手に入れたいリコが曖昧な言葉を言った。
だがAは対照的にはっきりうなずいた。
策があるのかどうかは彼以外わからない状況だった。
序盤同様、伊月と交代し、コートに入る。
そして緑間がボールを手にしたとき、即座に動いたのは珍しくAだった。
「……また、オマエか」
『あぁ、またオレだよ』
思い出すのはきっと、インターハイ予選。
あの時も今と同じ状況になっていたはずだ。
カチッ、カチッ、と秒針が動くような音が聞こえた。
むしろそれ以外の音は聞こえなかった。
自分の鼓動の音が何倍にもなって聞こえる。
相手の呼吸の音が聞こえる。
全てが自分と、噛み合う。
寸前まで、緑間はパスを出すそぶりを見せなかった。
だから気付いてから動き出すのでは間に合わないはずなのだ。
初めから知っていなければ、追いつけないはずなのだ。
『くっ……』
「なっ……！」
緑間の手から離れたボールに、Aの指が触れていた。
目一杯伸ばされた手が、少しだけ。
彼は、指の触れた面に力を込めて押したのだ。
パスを遮り、先にいる日向に届くように。
「まじかよ、アイツ」
「……キセキの世代はみんなそうだけど、うちのも相当底知れないわね」
点が決まって、観客がより一層湧く。
久しぶりにコートに姿を現したAがまた、異様な風格を表していた。
ふう、と短く息を吐く。
何かが欲しい、と言われて試してみようと思ったこの策。
結果的にうまくいったが、そうでなかった時のことを考えると恐ろしくもなる。
「……オマエ、やっぱすげーな」
『あはは、ありがとう。でもあとは任せるわ』
火神の素直な褒め言葉を、Aも素直に受け取った。
いつもなら謙遜したかも知れないが、きっと火神の言葉が本心だったから感謝を述べたのかも知れない。
終わらないで欲しいと思えるほど、楽しくて、見応えのある試合だった。
だがそれでも時は進み続け、いずれは終わる。
残りの2秒を残し、緑間のファウル。
勝負の行方はフリースロー2本に託された。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 187人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「黒子のバスケ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちさ子(プロフ) - 明後日打ったんで誤字になってて恥ずかしいです〜！！こちらこそレスありがとうございます！ (2019年12月19日 9時) (
レス) id: 62cdfd78f2 (このIDを非表示/違反報告)
ぽん、(プロフ) - ちさ子さん» あわわわコメントありがとうございます！！ありがたいお言葉で頑張れます！ (2019年12月18日 16時) (レス) id: 97d132fcbf (このIDを非表示/違反報告)
ちさ子(プロフ) - すごか面白くて、一気に読みました！！続き楽しみすぎて眠れないです笑笑 (2019年12月18日 3時) (レス) id: 62cdfd78f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽん、 | 作成日時：2019年6月1日 0時
