検索窓
今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:54,888 hit

第二十五桂 : ひび ページ28

惣菜を抱えて戻った本丸内は、やけに騒がしかった。

原因はどうやら、ミハナである。

「聞いてるの、三日月?
どうして畑に植えておいた野菜を、全部抜いてしまったの?」

怒っている、というより、
彼女は戸惑っているようだった。

「・・畑の野菜を全部抜いただって・・?」

木戸の前で服をなおす。
左文字が騒ぎの中心であろう広間へと視線を固定していた。

「・・はて、何か問題があったのか?
あの野菜をまとめて料理してみたいと思ったのだ。
研修生は、ここへ来てからずっと、
城下にでて食事をしているようだったぞ?
わざわざそのようなことをしなくても、
俺が一人で野菜を用意してやれば、
研修生はここから出なくて済むではないか。
ここにいるものは、誰もあ奴のことを気に掛けてやらぬでな」

――唖然とした。
俺が城下へおりて、食料を調達しているから、
その苦労を取り払うために、本丸の野菜を刈り取ったというのか。

茫然としていた視線を動かす。
広間の奥には、居づらそうに立つ燭台切がいた。
――あの様子だ。きっと、彼は、あの時食堂で、
自分が三日月の行動に文句をつけたせいだと、思っているのだろう。

「・・そんなの、・・・」

微塵と悪意のない眼差しに、ぐっとミハナが息をつまらせる。

――彼女が言いたかったのは、もしかすると。

(そんなの貴方が気にすることはないじゃない、・・か・・?)

しかしそれを言えば、あの悪意なき眼差しに悲しみが宿るだろう。
―――己の主が、他者に対してそのような態度だなんて。

「・・・」

随分と性根の悪い付喪神だと、思った。

しかしだからといって、わざわざ自分が割り込み、
話をややこしくする必要などないのだ。
桜夜は左文字に目配せをし、気付かれぬうちに廊下へとあがった。

「おお、研修生、帰ったのか!」

―――気付かれてしまった。

抜け出すようにミハナから離れ、
三日月は、棚に乗せられた野菜をぱっと手に取る。

「見ろ、お主のために畑から刈り取ったのだ!
どれも光忠の自信作でな、審神者の好みで、旬のものが多いぞ!
毎日城下におりていては苦労が絶えぬだろう?
これからは俺が、こうして野菜を届けてやるからな?」
「・・・あなた、」

何を言っているんだ。

両手に抱えた大量の野菜。
確かにどの野菜もみずみずしく、
三日月の言う通り、どれも上等な物ばかりだろう。


――――しかし決して、桜夜がそれを受け取ることなどないのだ。

第二十六桂 : 混乱→←第二十四桂 : 異質なのは、だれ?



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (24 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
32人がお気に入り
設定タグ:二次創作 , 刀剣乱舞 , 腐・恋愛/男審神者主   
作品ジャンル:その他
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・!いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます! (2015年12月7日 7時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・!ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね!ありがとうございます! (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています!これからも頑張ってください! (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます! (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました!三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:遊藍 | 作成日時:2015年9月25日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。