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【戻せない過去と過ぎ行く現在】
「怪しげな宗教団体ですか?」
「嗚呼、昔から殺人が多い地域なんだが＿＿＿」
国木田が机に地図を広げ、ある大きな建物を示す。今回は太宰と敦、国木田の三人で軍警からの依頼を解決することになったのだ。
曰く。昔から多いが、最近は更に殺人が活発化。大体がこの教会周辺。軍警が探ってみたところ、子供を集めて怪しげな実験をしている。
取り調べ、と正々堂々。真正面から挑むことになった敦は、子供達が祈りを捧げていた聖堂に案内され、現在の状況に当たるということだ。
「Aちゃん、だよね?」
『……私の名はアイリスです』
冷ややかな瞳が敦を貫く。十字架(ロザリオ)が彼女の胸元で揺れ、修道着がふわりと膨らむ。Aは聖堂の外に手を向けた。
『では、参りましょう』
「アイリス、聖書は重いからボクが持とうか。それと十字架の紐が切れそうだ」
『えっ、本当に?』
皮紐を心配そうに指先がなぞる。キースが大丈夫だ、と優しく微笑んでAと自分の聖書を腕に抱き抱えた。靄が敦の心を支配する。
「……敦君」
「は、はい」
「彼女、知り合いかい?」
「同じ孤児院の女の子です。絶対にそうですよ、僕が間違えるわけがない」
「……成る程。つまり此処は孤児を拾い、または貰い受けているのか」
「だろうね。でも基準が不明だ。彼等は神々の寵愛を受けている、と司祭は言っていた」
太宰と国木田が分析している間、敦は前を歩く彼女をじっと見た。アイリス、と云ってはいるが、確実に彼女はAなのだ。
冷たい態度に思い当たる節もなく、ただただ彼女が非合法な実験体になっていないのを祈る。そんなことは絶対にあり得ないが。
「あ、あの、アイリスさん」
『……』
「質問でしたらボクが。アイリスは今日、あまり気分が良くないんです」
少女の前に庇うようにして、少年が出る。もう彼女の隣に居るのは自分ではなく、彼なのだということを実感せざるを得なかった。
(支え合う記憶の温もりも)
(追い出された孤独も)
(置いていかれた憎しみも)
(神が隠した秘密の花園にて)
(終着を向かえるのは別の噺だ)
【弟切草】秘密、恨み
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作者名：セニオリス | 作成日時：2019年8月13日 14時
