【常磐薺】＊＿＿＿＿芥川龍之介 ページ8
【それを魅了と人は呼ぶ】
芥川には、愛してやまない想い人がいる。雪のような白い肌。滑らかな美しい髪。愛らしい桜色の唇。長い睫毛にふちどられた瞳。
その愛おしく華奢な体は、現在。火照った頬を紅潮させて荒い息を吐き出しながら、真っ白なシーツの上で涙目になっていた。
「……39.8度」
『……あつい』
「高熱だな。自業自得だ、あれほど僕は布団で寝ろと言ったのに無視をしたのは貴様だ」
『中也さんに、頼まれてたの。資料……』
「知るか。自分を優先させろ」
苦しそうに眉を潜ませながら大きく咳き込む。慌てて背中を擦ってやれば、Aはゆっくりと深呼吸をして此方を見上げた。
ねだるような視線に、仕方なくスポーツドリンクをグラスに注いで差し出す。細く綺麗な指が芥川からグラスを受け取り、唇をつけた。
『元は太宰さんのせいだよね……』
怨みでもあるのか、と問いたいぐらいの殺気が部屋を凍り付かせた。この部屋に居るのは芥川とAのみなので心配は無用だが。
『あの人が抜けてから大変……』
「太宰さんはポートマフィアの大部分の仕事を受け回っていたからな。あの人が裏切れば、それ相応の仕事が来る」
『織田さんが亡くなって直ぐだよね。太宰さんが失踪したのって』
彼女の立場は非常に高い。組織の参謀である彼女は首領である森鴎外の義娘だ。幼少期からポートマフィアとして名を轟かせたA。
森氏が長となってかは作戦指揮官から参謀となった“鬼才”。七光りではないことは彼女の功績を見れば、一目瞭然と言える。
だからこそ太宰や中也とも仲が良かったし、太宰と仲が良かった人達(最下級構成員等)とも面識がある。事実もかなり理解していた。
元最小年幹部である太宰が抜けた仕事が一気にAにいったのだろう。それは、次期幹部と名高い中也も同じだと容易に想像できた。
同じ年とはいえ、ここまで仕事の量が違うのはポートマフィアとしての年歴が違うのだろう。無論、地位という部分もあるが。
「体だけは壊してくれるな、とあれほど忠告したのだがな」
『龍くん』
「なんだ、A」
『……ね。手、握ってて』
仕事の話をしていたら疲れてしまったのか、甘えてきたAの手を仕方なく握った。嬉しそうに目を細める彼女。そっと唇を近付けた。
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作者名：セニオリス | 作成日時：2019年8月13日 14時
