fire.13 ページ13
背中まで刃先で貫かれた脇腹は丁度包帯が巻かれていた場所だった。
出血したところから火が引火して全身に広がっていく。
右手、腕、背中、額。
炎に包まれた吉行は声にならない声をあげて地面に蹲った。
「吉行！自我を保て！！負けないで…！！」
「主様！！それ以上近付いては…！」
「目の前で燃え尽きてく様子をただ見てろって言うのか！これ以上、炎に大切なものを奪われてたまるかよ…！」
五虎退の腕を振りほどき、吉行のもとに走った。
炎に手を伸ばすと電流ともに顔の火傷が炎と共鳴するように焼け爛れて行くのを感じた。
痛みに顔を歪ませながらも吉行の両肩を掴み、ひたすら声をかけた。
「吉行、吉行…！炎に負けるな、こんなところで燃えて消えていいのか…まだまだこれからのはずだろう…！」
どんな言葉も炎の前には無意味なのだろうか。前の主のように広く壮大な海のような心を持って生きようとする吉行に、私の言葉は届かないのだろうか。
私が出来損ないであるために、吉行を折れさせてしまうのか。
もうあの笑顔は見られないのか。
もう隣を歩いてくれないのか。
「…吉行。」
自然と体が動いて。気付けば吉行を抱き締めていた。
「無茶ばかり言う主でごめん。吉行がいないと私は前も向けないんだ、吉行と、夜明けを見るまで、一緒にいたい。」
全ての力を吉行に流し込む。内側から吉行の身体を満たし、炎の間の盾になるように。
これを流し切ったら、時間圧に潰されて私はいなくなるだろうな。でもそれでもいい、吉行がいれば…
「そがなことして、言ってることとしちゅうことが合っとらんがよ。」
ちょっと意地悪に、困ったような笑顔。
私が見たかった笑顔。
「…遅い。」
「ほんに無茶ばかり言うにゃあ…主の言葉が聞こえて急いで戻ってきたんに。」
「いいから本丸に帰るぞ。こんなこと言ってる場合じゃない。」
「そうじゃな！主を泣かした罪は重いぜよ！おんしゃら、生きて帰れると思うなや。」
吉行は刀身に炎を纏い、敵を一掃した。
あの時とは違く、吉行らしく、拳銃と刀で炎を帯のようにたなびかせる戦う姿は嫌気がさすほど美しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：宵ノ月 | 作成日時：2023年9月28日 6時
