漆黒の禍狗はパパになったようです

なみだとえがお ページ22

(2才頃)(芥川side)
『ぱぱ！おきゃえり！』
今日は珍しく仕事が早く片付いた僕が自宅の玄関の扉を開けると、つい先日2歳の誕生日を迎えたばかりの娘、治春がとたとたと居間から駆けてきた。

ところが、カーペットか何かにつまづいたのか、途中ですてんと頭から転んでしまった。

そしてそのまま、うわああん、と火が付いた様に泣き始める。

その泣き声を聞き付けたAが一生懸命に治春をあやすが、一向に泣き止まない。

『うわああん！いちゃいのー！』

「治春ちゃん、大丈夫だよ〜。ほら、パパとママだよ〜」

可愛いらしい顔を涙やら何やらでくしゃくしゃにして、母の腕の中で暴れている。2歳ともなるともう結構重く、Aも大変そうだった。

「はぁ…」

しゅる、と羅生門を伸ばし、Aの腕の中から治春を取り上げると、何時ものように『高い高い』をしてやる。

突然体を持ち上げられ、治春は最初はびくっと驚いた様子でいたが、途中からは楽しそうにきゃっきゃっと笑い出した。

『わぁー！ぱぱ、たかいねぇ！』

「…泣いたと思ったらもう笑うか、我が子ながら忙しい奴だ」

頭をぶつけた事などすっかり忘れたかの様に、僕に抱かれて機嫌良く笑う治春は、母であるAの遺伝なのか、赤子の頃から感情表現が豊かでよく笑い、よく泣く子供だった。

「…治春は本当にAに似ているな」

傍に来たAに外套を預け、そう云うと

「ふふ、でもね、最近は龍に似てる所も増えてきたんだよ!不機嫌な時、眉間に皺が寄るところとか!」

「…其の様な所が似てどうする」

そう云うと、何時の間にか眠ってしまった娘を妻に預ける。

「まあ、私はそんな所も大好きだけどね!あとね、龍。」

Aは急に、ぴとりと僕に寄り添い

「大声を上げて泣く子は、愛されて育った子なんだって。」

と云い、僕の右手を柔く握った。

「龍が、治春ちゃんの事を沢山愛してくれるから、治春ちゃんは何時も元気に笑って、泣いてくれるんだよ」

「―嗚呼。」

僕も、其うなのかもしれぬな。

『感情を持たぬ子』と呼ばれた僕に感情を、愛を教え、娘迄与えてくれたお前達がいるからこそ、僕はAを、そして治春に愛を与えられるのかもしれない。

其の想いは胸に仕舞い、Aの前髪を掬い、額に口付けた。

かけがえの無い、２つの笑顔を守り続けると誓って。

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