mission 44 ページ44
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そっと近づいていくと、耳に入る荒々しい声がすぐ傍に来ていた。
「はぁ、はぁっはぁっ、……んん"っ」
「いいなぁその顔。そそる」
どう聞いてても苦しそうにしている片方。
女なのか、高い声を抑えてなんとか耐えているようにも感じる。
もう片方は余裕そう。
……なんだよ。大人って、こんなことやってんの？
子供の想像とは別世界のように聴こえた。
ぺちゃぺちゃと水音の響く路地裏で、しかし、口づけの音すら微かなその狭い空間。
……大人の愛し方って、こんなもんなのか。
皮肉にも、俺にはそうとしか捉えられない。
「一回くらいなら、いいよな」
人様の営みを邪魔するつもりはないが、ここでやっているのが悪い。
そう割り切って、覗き込んだ。
「──っ！！」
その瞬間が、スローモーションみたいに目に映った。
危うく声を上げそうになる。
慌てて口を手で抑え携帯を手に取ろうとするが、不覚にも滑り落ちていくそれ。
大きな音を立てて、俺の頭を真っ白にさせた。
「じゃあ今日は、この辺で」
突然の物音に驚いたのか、途端に俯せから起き上がった。
また来るよ、と立ち上がり、反対方向に走り去って行った男。
残ったのは、他でもない“あいつ”だった。
「お前っ、」
「……来んな」
「でも──」
「こんな姿っ、見るもんじゃねぇ、よ」
分かってくれよ、な？
２つの瞳だけが俺を向いて、どこか、死んでしまったように。
手足はコンクリートに投げ出され、白い液体に塗れていた。
震える肩は未だ続く荒い息と連動しているみたいで、それだけが唯一、薮が生きていると証明してくれていた。
「そんなんじゃ、風邪、引く」
こんなしょうもない理由でしか、薮に近づけなかった。
湿っぽくなった閉鎖的な空間に、熱い空気が密閉されている。
脱ぎ捨てられた服も薮の身体も、現実を知ってしまうのが怖くて目を逸らした。
「いいから。……早く、帰れって」
「こんなん放っておけるわけねぇだろ」
後からどんなことを言われようとも、俺が付いていなければ消えてしまう気がした。
……怖かったんだ。遠くに行ってしまうのが。
薮を起き上がらせ、着ていたパーカーを肩に掛けた。
手が触れて肩が跳ね上がったが、それ以降は呼吸も安定してきていた。
「とりあえず、店まで送る」
無理矢理服を着せ、yesもnoも聞かぬままに腕を肩に回す。
ネオンが見下ろす街に、一歩を踏み出した。
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作者名：柊 | 作成日時：2018年10月12日 19時
