31. ページ31
まさか、いや、でも。
前世ではファンアートの集合で作られた兄さんの姿しか知らないとはいえ、あまりにも酷似しすぎている。思い出す前に出会っていたなんて、そんな都合の良いことがあるのだろうか。まあ、そんなことを言い出したらこの世界自体が私にとって都合がいいだけのものなのだけれど。
否、違う。この世界が私を中心に回っている訳では無い、だってここには彼らがいるのだから。
そう思って、同時にすとんと納得した。
ああ、そうか。
この世界は彼らのものだ。この世界の主役は彼らだ。
私は彼らの役に立てればそれでいい。一々彼らの行動に疑問を持たずとも、ただ仕事をこなせばいいだけだ。彼らの役に立てるように、彼らの望みを叶えるために、今世の私の能力を活かすだけだ。
信用に拘る必要も無い。彼らが私を信じようが信じまいが、私は私のやるべきことをこなせばいいだけだ。近づきすぎることなく、けれど許されるのならばこのまま、傍で彼らの姿を見ることが出来るのなら、それ以上の幸せなんかない。
「……うん、すっきりした」
兄さんの件は、彼が帰ってきた時に確かめればいい。恐らく私の事なんて覚えていないだろうし、仮に記憶にあったとしても、当時の私と今の私では随分と違うだろうし。
やるべきことは固まった。兎も角、明後日に任務を伝えられるまでは出来ることも無いのだから、仮の職務に勤しむことにしよう。
着替えを持って備え付けのシャワールームに向かいながら、自然と肩の力が抜ける。
光熱費と食事代は、後から相場を調べて払うことにしよう。
ぱちり、ふと目が覚める。
ぼんやりと天井を見上げて数度瞬きをし、時計に目をやると、アラームが鳴る五分前だった。丁度いいかとアラームを止めてベッドから出て、昨日とさして変わらない白のカッターシャツと黒いパンツスーツを身に纏う。冷たい水で顔を洗ってから、未だにやり方がよくわからない化粧を口元以外の最低限だけ済ませた。
再度時計を見やると時刻は三時五分、丁度いいくらいだろう。
出勤するという旨のメモを手に、自室を出る。
階段を降りて食堂に向かうが、やはりというか何と言うか、全くお腹は空いていない。飲み物だけ貰おうかと考えながら歩いていると、ふと前方に気配を感じた。少し警戒しながら目を凝らすと、ひらりと赤いマフラーが揺れている。
「……トントン様？」
「お、……っと、Aさんか、びっくりしたわ」
振り返った彼の目の下には、濃い隈が出来ている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1603人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
