あの音と一緒に、 ページ9
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「…黒鍵のエチュード、」
かちりと針が動いて流れ出した聞き覚えのある音楽に、ぽつりと小さく僕が呟いたのをAは聞き逃さなかった。
「…覚えてるの?」
「もちろん。…さんざん練習したよ。弾けるようになった」
確か、付き合う前。学校から帰る途中の会話だったと思う。
ピアノを習っていたAが、僕に話してくれたんだ。
『真冬くん、ショパンって知ってる?』
『ショパンって…別れの曲の?』
『そうそう!そのショパンの曲でね、変な曲があるの』
『変な?』
『黒鍵のエチュードって言うんだけど。白鍵全然使わないの!…黒鍵でよくミスするから、弾けるようになりなさいって課題として出されちゃった』
『…ふーん、そんな曲あるんだ』
『そう。すっごい難しいの。明るい曲なんだけど、音外すとめちゃくちゃかっこ悪くなるんだよね…。ショパンの曲好きなのにな〜…嫌いになっちゃいそう』
…彼女が死んだ時、急にその話を思い出して。取り憑かれたように無心で練習した。泣きながら、ただただ鍵盤を叩いて…多分、あれは現実逃避だった。…もう、弾けなくなってるかもしれないけど。
「…じゃあ、まだ音楽やってる?」
「うん」
「そっか…」
小さく返事をしてそのまま黙り込んだ彼女に目を向けると…その真っ白な頬を、涙が伝って落ちるところだった。
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作者名:らぱん( ・×・ ) | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=d9fece3f785bc7d3ebaeeecd6103e95f...
作成日時:2019年12月24日 4時