幸福論 =4=

Episode.168 ページ26

夢を見た。
みんなが死んでいく夢。自分が助けられた人達が、ポロポロ手からすり抜けて落ちていく。そのたびに下ではグシャッと嫌な音がして、恐怖で見ることすらできず、かといって動くこともできず。

落ちるたび、潰れる音。どうしようもなく吐き気がする。誰もこちらと目が合わず、ただただ落ちていくのが恐ろしい。すると、初めて目が合った。ブチャラティだ。ブチャラティが、落ちていく。

待って

待って


｢待ってぇ！！！！｣

｢おい！A！！｣


自分の叫び声と男の声は同時に聞こえた。吐き気はまだ消えていなくて、何とか逆流しようとするものをせき止める。全身の汗が気持ち悪く、視界もグラグラとしていた。隣を見れば、空条承太郎と医者がいる。


｢な、にが……｣

｢君が酷く魘されていると聞いた｣

｢……嫌な、夢を見て。多分もうすぐだから｣

｢君自身も、あの日記に悩まされる一人というわけだな。未来を読むことの覚悟は、やはり必要だ｣


未来を読む覚悟。そんなの、あの赤いページを初めて見た日にできていた。そう思っていたが、一人になるとこんなに心細い。結局、Aはまだまだ覚悟や決意なんてものとは程遠い、みんなのようにはなれない。


｢……ああそういえば、聞いてくれたんですか｣

｢ああ。チームは別々に行動しているらしいが、全員今のところ無事らしい。あと、君を出さないよう念を押されてしまった｣


別々に行動、ということはやはりリゾットはブチャラティ達に積極的には関わっていないのだろう。元々Aが言わなければ救う義理などないと言っていたし。じゃあ、さっきのブチャラティは？全員無事と言っていたが、あんな嫌な夢、ただの夢だと思うのは難しい。


｢やっぱり、今すぐここから出して｣

｢何度言わせる。それはできない｣

｢私だって考えた。干渉するのは良くないとか、意思を尊重しようとか、考えたよ。でも、仲間の誰も、今まで私がやろうとした事を止めなかった｣

｢それは君の意思を尊重した結果だろう｣

｢なら私はこのまま進む。私は行動する。あの時彼に言ったように、後悔しないために｣

｢自分勝手じゃないのか｣

｢それ、もう最初から言われてたから。自分勝手のクソ女って。私は最初から、自分勝手で自己満足ばかりの人間。悩む必要すらなかった｣







(やりたいように)
(みんな最初からそう言っていた)
(不幸だからこそ、アクセルを踏む)

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