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その直後、突然インターホンが鳴ったので、ゆっくりと歩いて画面を確認しに行く。待たせてしまうのは申し訳ないが、仕方のないことだった。北斗くんは宅配便が届く時間に家を空けるわけがないから、宗教勧誘の類いだろう。それだとしたら出ないから、いくら待たせてもいいかとも思う。
モニターに映っていたのは樹くんだった。気だるそうにスマートフォンをいじっている。待ってくれるだろうと見当をつけ、返事をせずに玄関に向かった。ドアを押すようにして開けると、樹くんは驚いた顔をした。
「へ!?北斗は!?」
「今スーパーに行ってていないの。」
「え、1人で歩いて玄関まで来たの!?」
「うん、そう。」
口を開けている樹くんを部屋に入るように促した。お邪魔します、と軽く頭を下げて入ってくる。何度家を訪れてもきちんと挨拶をするところから、人柄の良さが滲み出ている。ピアスもネックレスも指輪もジャラジャラなのに。
「はぁ〜!随分回復したな!」
私が壁に手を添えながら歩くのを見て、樹くんは感心したように言った。柔らかく目尻を下げて、目を細めている。
「ね、今朝なんて1人でお茶を入れられたの。」
「すげぇじゃん!」
「ふふ、そうでしょ。」
「北斗も喜んだだろ?」
「うーん、多分ね。」
喜んでくれたか、というと少し微妙なところだった。良かった、と笑ってくれたけど、なんとなく本当の笑顔のようには見えなかった。そのあと、少し考え込むような顔をしていた。
「多分?なんかあった?」
「なんかってほどじゃないよ。ちょっと考え込む顔してただけ。」
「なんだ?あいつ。わっかんねぇなぁ。」
「そうだね…。あ、そういえば、来週でも再来週でも大丈夫よ。」
「来週にしようと思ってるんだけど、北斗の予定は?」
「何もないよ。」
テーブルの上のカレンダーに何も書いていないことを確認して答えた。最近はなんの予定も入れず、ずっと家にいてくれてるから確認しなくてもいいようなものだったけど。
「友達少ねぇもんな、北斗。」
「それに、最近は私のせいで外出が減っちゃって。」
「自分のせいだって思う必要ないって。」
立ち上がって、北斗くんが沸かしてくれた麦茶をグラスに注いだ。樹くんに手渡すと、サンキュと言ったあとにすげえなとぼそっと呟いた。
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作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時