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「そうかな。でもやっぱり思っちゃうよ。古着屋とか美術館とか好きだし、そもそも忙しくしていたい人なのに…。今、私の事で手一杯にさせちゃって。」
「長く一緒にいられるって喜んでそうだけどな。」
「……。他にも沢山我慢させてると思う。北斗くんがどう思ってるかは分からないけど。」
「我慢?」
「北斗くんの友達に相談するのは自分でもどうかと思うんだけど、そういうことも出来てないのよ。激しい運動は禁止だから。」
樹くんがゲフッと麦茶を吹き出して、激しくむせ始めた。テーブルも服もビシャビシャに濡れてしまっている。ティッシュを箱ごと差し出すと、樹くんは乱暴に口を拭った。
「おまっ何言ってんだよ急に!」
「だって付き合ってるんだから当然でしょ。」
「いやっそれはそうだけど!そういうことAちゃんが言うと思わなくて…!」
樹くんは慌てたように立ち上がった。椅子がガタンッと音を立てる。
「大問題だと思わない?」
「わかんねぇよ!北斗がどう思ってるかなんて知らねぇし!急に友達のそういうの聞かされた身にもなれよ!」
「大したことではないでしょ。」
「いや…なんかもういいや。」
樹くんは呆れた顔でヨロヨロと椅子に座った。自分だって女の子と遊んでるんだから、何も動揺する必要は無いのに。
「俺は〜確かにしんどいっちゃしんどいけど…、それでも彼女がそうだったらそんなこと気にしない…と思う…し、北斗はそういうの気にするやつかね。俺にはそうは見えないけど。」
「でも…。やっぱり申し訳ないよ。」
「いやぁ、えぇ〜?」
「そういうことも出来ないのに、手間ばっかりかけさせちゃって。」
ゴトッと何かを落とすような音がして、ギィとドアが開いた。樹くんの顔が固まった。熱心に話してしまっていたし、ドタバタとうるさかったから鍵が回る音に気が付かなかった。
「北…斗…。」
よりにもよってこのタイミングで、としか言いようがない。引きがいいのか悪いのか。振り向くのが怖い。今の話を聞かれていたら、北斗くんが怒るのは至極当然のことだ。
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作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時