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「そういえばさ。」
私が回復したら2人で飲もうと、北斗くんがプレゼントしてくれた山崎12年の瓶を眺めていると、いつの間にか北斗くんが後ろに立っていた。
「なぁに?」
「俺の勘違いだと思って、ずっと言わないでいたことがあるのね。」
北斗くんはこめかみのあたりをポリポリと掻きながら、言い出しにくそうにしている。何の話だろう。心配にさせることとか勘違いさせるようなことはしていないはずだけど。樹くんたちも北斗くんがいる時にしか来ないから怪しまれることは無いはず。そもそも私も樹くんたちも何かが起こるなんてお互いに全く思っていないし。
「5月の中旬辺りかな、それぐらいからAが目覚める間、一緒に過ごしてた気がするのよ。ていうかその記憶があるのよ。」
「…え?」
驚いた。そんなことを気にしていたと思っていなかった。ぽかんと口を開けて、間抜け面をしている私を見て、北斗くんは慌てだした。
「俺のこと頭おかしいって思ってる?通院が必要なのは私じゃなくてあなたのようですなぁって。」
「違う!違うよ!」
だって共通認識だと思っていたのだ。あの1ヶ月間のことを疑っているだなんて気が付かなかった。
「私は、実際にあったと思ってるよ。」
「え?」
「だって、フレンチトースト作った記憶がある。」
「……本当に?」
「本当。もちろんありえないことだっていうのはわかってるんだけど。」
「まじかぁ。ないと思ってた。俺がおかしいんだって。」
松村くんは困ったように笑った。肩をふっと下ろすようにして。私は彼のこの動作が好きで、手を叩いて足を踏み鳴らして、アンコール!と叫びたくなる。そう言うと、ただ困った顔になるので言えない。もっと見たいのに。
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作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時