1-4(日向なつ) ページ9
「さて……何処から話した物だろうな」
席につき、紅茶のカップが手元に配られたところで、眼前の青年がそう切り出した。
改めて見れば、彼はどうにも風変わりな服装をしていた。三つ揃い、というのだったか、きちんとベストを着込んだ上からロングコートを優雅に纏っている。ピンクともオレンジともつかない色味の模様が描かれたものだ。胸元を飾る大きめのリボンといい、今どき(少なくともアリスの知る中では)あまり被る人のいないであろうシルクハットといい、なんだかやけにファンタジックだ。配色をモノトーンにして柄を抑えれば、中世あたりの霧煙るロンドンで馬車に乗っていても違和感なく溶け込めるだろう。
「色々と聞きたいことはあるだろうが……そうだな、まずは改めて自己紹介といこうか。はじめまして、レディ、オレはマッドハッター。この家で帽子屋を営んでいる。先ほどは、君のような年頃のレディを突然男の家に招いてしまってすまなかったな。子どもたちもいることだし、どうか大目に見て貰えるとありがたい限りだ」
彼、マッドハッターと名乗った青年はシルクハットを脱いで優雅に頭を下げた。ペリドットのような切れ長の瞳が涼しげで、その口元は静かに笑みを浮かべている。春先の木陰を思わせる、端正な顔立ちだ。
「あ、ええと……あたしはアリス、白羽アリスよ。さっきは助けてくれてありがとう、ええと……マッドハッター、さん？」
「ハッターでいい。レディを助けるのは紳士として当然の事だろう？ それに、結局はオレが助けられたようなものだ」
「じゃあ、遠慮なく、ハッター。その事なんだけど、あたし、あのとき何をしたのか、正直なところあまり分かっていないの。何か知ってるなら、ぜひとも教えてほしいんだけど」
「勿論、そのつもりだ。だが、先にこちらを片付けてしまっては如何かな」
茶目っ気たっぷりにウインクをひとつ残し、ハッターは部屋の奥へ消えた。そう間を置かず戻ってきた彼の手には、フルーツがふんだんに使われたタルト。伸び上がってタルトを見たらしいマーチが子どもらしく歓声をあげ、スリーピーも控えめながら嬉しそうに微笑んだ。
「チビたちと食べようと作っておいたんだ。予定より遅いティータイムにはなったが、その代わりよく冷えている」
「作った、って……嘘、これ売り物じゃないの！？ すごく美味しそうなの、見てるだけでも分かるくらいよ」
「それは光栄だ」
ハッターは実に嬉しそうに笑うと、丁寧にタルトをサーブした。
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ユエル(プロフ) - クルルさん» コメありがとうございます！不定期更新ですが頑張りますね(^^) (2021年1月11日 13時) (
レス) id: 673d6f73a6 (このIDを非表示/違反報告)
クルル(プロフ) - めちゃくちゃ面白い！！！！サイコーです！！続き待ってます！！ (2021年1月3日 23時) (レス) id: 297c8a2c3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ユエル×日向なつ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月21日 1時
