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「どうぞ、アリス」
いただきます、と呟いてタルトを1口。フォークの先に伝わるさくりとした感覚が心地良く、窓から射し込む陽射しにフルーツがきらきらと輝いた。ぱくりと頬張れば、何種類ものフルーツが織り成す複雑な酸味。舌の上でカスタードがとろりと溶け、その甘みがフルーツの酸味をまとめて包み込む。咀嚼する度にフルーツの瑞々しさが弾け、その合間にタルト生地の食感がさくさくとアクセントを与えてくる。追いかけて紅茶を1口飲んでみると、まだ熱いくらいの紅茶がカスタードを蕩けさせる。タルト生地はさくりと砕けたかと思うと、紅茶の水分でほろほろと崩れてアーモンドの香りを残す。癖のない、けれど柔らかな甘味を含んだ紅茶はタルトに良く合っていた。
「なにこれ……すっごい、すっごい美味しい! ハッターあなた天才じゃない!?」
「ハッターは帽子よりお菓子作りのほうが才能があるくらいですからね。ハッター、今日も美味しいです!」
「……おいしい。ネズミ、これ好きよ」
「アリス、スリーピーありがとう。マーチ、誰がなんと言おうとオレの本職は
上から興奮気味のアリス、悪気なく失礼なマーチ、お行儀よく口元をほころばせて喜ぶスリーピー、約一名のセリフに呆れつつ言い返すハッターだ。言われたマーチは「アリスさん、あとでハッターのアトリエ見てみるといいですよ。絶対パティシエを勧めたくなりますから」と失礼を重ね、アリスは苦笑いをしつつも忙しなくタルトを口に運ぶ。人間、美味しいものを食べるときに言葉は不要なのだ。アリスの口は今、喋る為ではなく食べるために存在している。
「ハッター。紅茶、なに?」
「ダージリンのセカンドフラッシュだ。癖がなく飲みやすい」
スリーピーの問いかけにハッターがよどみなく答えるさまを見て、アリスは内心マーチに賛成する。――このひと、すごくケーキ屋さんかカフェのマスターやってそう。
そうしてひとしきりタルトと紅茶に舌鼓を打ったところで、アリスたちはようやく本題に入った。
すなわち、この世界が何で、アリスが手に入れた「力」とは何なのかについてだ。
「君の力については……すまない、あまり詳しくは分からない。だが、一応それらしい伝説なら存在する。白と黒の……いや、まずはこの世界について話しておくべきだろうな」
「ええ、お願いするわ」
ハッターはその言葉に薄く笑うことで応えると、優雅な仕草で足を組み替え、この世界について語り始めた。
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ユエル(プロフ) - クルルさん» コメありがとうございます!不定期更新ですが頑張りますね(^^) (2021年1月11日 13時) (レス) id: 673d6f73a6 (このIDを非表示/違反報告)
クルル(プロフ) - めちゃくちゃ面白い!!!!サイコーです!!続き待ってます!! (2021年1月3日 23時) (レス) id: 297c8a2c3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユエル×日向なつ x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年5月21日 1時