2-14(日向なつ) ページ42
「あいつら…トランプ兵の徴税は、マトモなモンじゃねえんだ」
吐き捨てるように言ったハッターは、地面に落ちたままの書状を踏みつけた。流れるように書かれた、見事に整った文字を靴跡が汚していく。
「毎朝気に入らねぇ家を叩き起こしては、無理難題を押し付けていく…おかげで増えたモンと言や、スラム街とボロい空き家ばかりさ」
ああ、それと王宮の金庫も潤ってんだろうな。
皮肉っぽい口調には確かな怒りが滲んでいて、アリスは思わずハッターの腕へと手を伸ばして…そのまま手を繋ぐのはなんだか躊躇われて、袖口を握りしめた。
「あのクソ兎が宰相だのと名乗り出してから、
この家の屋根だって…昔は、もっときれいなラズベリージャムの色だった」
そう言われて、今もなお鮮やかなピンク色の屋根をじっと眺める。
丸みを帯びた形の愛らしい家だ。そこに住んでいたのだろう、幼い少年2人と優しげな女性。
きっと夕飯時にはやさしい匂いがして、遊び回ってお腹を空かせた子供たちはあの扉を勢いよく開けて転がり込んだのだ。
「…なんとなく、想像付くよ。あれ、あそこのレンガに挟まってる紙飛行機、折ったのハッターでしょ」
「どこだ？ …ああ、あれか。さあ、どうだろうな？」
「嘘。ここからじゃ、よーく見ないと分からないけど、端っこにネコの絵と『バカネコ』って書いてあるもの」
ゲッと妙な声をあげたハッターは、「…明日の朝には梯子で回収してやる」と渋い顔になった。
その顔があんまり毒気のない顔だったので、アリスは安心して少し笑ってしまった。
「カーテンもちょっと染みになってるの、ハッターが紅茶淹れる練習とかしてたでしょ。隣にあるぬいぐるみ、シルクハット被ってるからハッターの手作りじゃない？」
「クソ、よく気付くなおまえは！
…昔の作だから恥ずかしいんだ、あまりじろじろ見るなよ」
アリスは思わずくすくすと笑いを漏らした。
「なんでよ、可愛いじゃない？
…大事に守ってきたんだね。この家、見ただけでどんな生活してたんだろうって分かるもの」
「…それでも、少しずつ時間に追いつかれちまうんだ。昔のままには出来なかった。
家ってのは、どんなに守ろうとしたって住むヤツがいなきゃダメになっていくんだ」
ハッターは窓枠にうすく溜まった埃を拭き取ると、「先に帰ってろ」とバケツを取り上げた。
この家の掃除をするなら、きっとアリスは手を出さないほうがいい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「トリップ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユエル(プロフ) - クルルさん» コメありがとうございます！不定期更新ですが頑張りますね(^^) (2021年1月11日 13時) (
レス) id: 673d6f73a6 (このIDを非表示/違反報告)
クルル(プロフ) - めちゃくちゃ面白い！！！！サイコーです！！続き待ってます！！ (2021年1月3日 23時) (レス) id: 297c8a2c3d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユエル×日向なつ x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月21日 1時
