棘ごときみを咀嚼する(左近・微甘) ページ1
『A様!!今日も会いに来たっす!!』
大坂城の傍の屋敷で暮らす私のもとにやって来たこの男は最近の私の悩みの原因の1つだ。兄上に仕えている若い青年のようだが、私はこの男の風貌や態度が気にくわない。
「またいらっしゃったのですか?以前私のもとにいらした際にもういらっしゃらないでと申し上げましたが…」
『A様ってやっぱり三成様に似てるっすよね、俺に対する態度なんか特に…』
隠しきれない彼に対する嫌悪感を知っているのだろうか彼はいつもと変わらない調子で私と会話をする。兄上とは全く馬が合わなそうなのに兄上は彼を斬り捨てはしない。不思議なことだ。
「左近様はなぜ毎日のように私のもとへお越しになるの?」
その途端に彼は驚いた。
『え?A様マジっすか?俺刑部さんにヌシは誠に顔に出やすいって馬鹿にされたんすよ!?』
言っていることが理解出来ずに口をぽかんと開けていると左近様はため息を吐いた。
『はぁ…。これから俺の言うこと本気で聞いてくださいよ?A様って三成様の妹っつーからどんだけ冷血な人かと思って三成様や刑部さんと話してる姿見たら美しくて穏やかな方でマジで心撃ち抜かれたっす…これはヤバいっしょって』
突然の言葉で私はただ呆然とするしかなかった。あの嫌悪感を抱いている男が私に対して好意を抱いているとは冗談としか思えない。
『なのにA様は俺のことなんか見向きもしないで無関心なのが悔しくて、A様が俺に少しでも興味を持ってくれるようにってここに通い詰めてて…ってかこれただの俺の一方的告白じゃないっすか!?A様があまりにも鈍感だから全て言ってしまったんすけど!んでA様は俺のことどう思ってるんすか?』
左近様の目は本気だった。いつの間にやら嫌悪感なんてものは既に何処へと飛んで行った。
「私は…正直左近様のことは苦手でしたしそのお言葉には驚きました。でも今は左近様と向き合ってみたいなって思いました」
『マジ?ちょっ、俺本当に今日ツイてるんじゃね?俺、A様のこと絶対に振り向かせてみせますから!』
彼は私の手を取って輝いた目でそう言った。少し胸が高鳴った気がするのは気のせいだろう。
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作者名:華燐 | 作成日時:2020年4月22日 22時