Valkyrieの強火オタクが魔王様と距離ができる話

54 ページ7

*





俺が帰ってくる、という噂を流したのは生徒会室に誰も近寄らせないため、だったのに




悠然とした立ち姿
病弱を思わせる儚げな雰囲気




声の持ち主が誰かわかった瞬間に離れる温もり
数メートル離れられただけなのに、もう触れられないような距離に感じられた

つい一瞬前まで俺だけを映していた瞳はその声の持ち主を追う





その様子を見て物語の中の王子を思わせる優美な微笑みを深める







｢ひどいじゃない、A。浮気だよね、僕が知らないとでも思っていたの？｣




つかつかと生徒会室に入ってきたのは





『根暗ヤロ〜…』




｢こんにちは、朔間先輩。嬉しいなぁ、生徒会の下っ端の僕なんかを認識してくれていたんですね｣






慇懃無礼とはよく言ったもので、言葉通りの嬉しさはそこには滲まない






｢A、こんなところで何をしているの。アイドル科には近づかないようあれほど言ったはずだよ｣





天祥院がそっと優しくAの肩を抱くと、ふるりと身体を震わせる





｢えい、ち、ちがうの、｣




声まで震えたAの表情には恐怖が張り付いている




｢言い訳ならあとで聞いてあげる。とにかく、授業が始まるから普通科に帰りなさい。もちろん、誰にも見つからないように、ね｣





とん、と扉の方へ誘導する
それにふらふらとした足取りで従うA


一瞬ふりかえったが、目を合わせるとすぐそらされた




『お前は、あいつのなんなわけ』



Aが出ていったのを確認して、問う
声がかすれないように、精一杯努めながら









｢僕ですか？僕は、｣









.









.









加賀里Aさんの婚約者、です









*

55→←53

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す