辻村の憂鬱11 ページ20
Aさんについての記録に目を通し終えて息をついた。
驚くほど普通の人だった。
なんの変哲も無い一家の娘として生まれ、そこそこ恵まれた環境下で育った。
成績も悪くなく、問題を起こしたこともない、人と関わるのが少し苦手だというだけの少女。
性格はマイペースでめんどくさがり、友人は少ないがみんなを大切にするいい子。
どちらかといえば目立たなくて虐められる側の人間。
それでもとても優しい人だったと当時の知人は証言していたという。
何処にでもいそうな女の子。
それがここまで変わってしまう。
怖いと思った。
綾辻先生は私が資料を読んでいるのを見ていたが、ぽつり、と口を開いた。
綾「アルバムの類はないのか?」
辻「アルバム、ですか?多分……特務課が押収していたと思いますが………」
彼女以外一家全滅だから、家の整理などは特務課がやっていたとある。
それを届けてくれるように手配した。
2時を回った頃、届けてくれた特務課員の方にお礼を言って玄関で荷物を受け取り部屋の中に戻ると綾辻先生がすごい速さで奪いとっていった。
辻「綾辻先生は本人から聞いていないんですか?昔のこととか」
綾「自分のことを聞かれて客観的に話せるものか?違うだろうが」
まあそうですけど。
でも私もAさんの子供時代は気になりますけどね、綾辻先生も相当見たかったんですね。
奪い取られたアルバムを覗こうと綾辻先生に近づく。
写っていたのは、墨色の瞳でじっとカメラのレンズを見つめる真顔の幼女だった。
天然パーマがかかっていて可愛らしい子供だ。
さぞ大人たちに可愛がられたことだろう。
ただしどの写真も無表情か真顔で喋っているか、なんとも言えない…………………本人なりに笑顔を浮かべているのだろうが強張った慣れない笑い方だった。
「はいチーズ。笑って!」と言われて頑張って笑顔を作った、という感じだ。
赤ん坊の時から幼稚園の頃、小学生の頃、中学のときと全部が全部そんな感じの写真だ。
家族写真は気が緩んだ微笑みを浮かべていた。
表情筋はどうやら生まれたときから死んでいたらしい。
子供らしい満面の笑みが写真にこぼれることはない。
だけど、写真の中のAさんは楽しそうだった。
数枚だけ、笑っている写真があった。
不意打ちで撮られたのか、お世辞にも上手な写真ではないけど屈託無い笑顔が写っていた。
−−−−−幸せだったのだ。
今後、彼女がこんな笑みを浮かべることがあるだろうか。
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乾 巽(プロフ) - 赤珠さん» 同い年ですね! (2019年8月17日 21時) (レス) id: a46352e6e0 (このIDを非表示/違反報告)
赤珠 - 乾 巽さん» 同い年……オーマイガァー (2019年8月17日 20時) (レス) id: 8dc3cc174c (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - 赤珠さん» ありがとうございます、そんなこと言われたの初めてです。因みに年は今15です (2019年8月17日 11時) (レス) id: c1b6b5f4c6 (このIDを非表示/違反報告)
赤珠 - 文才力の塊……。その文才わけてください← この小説とても面白くて大好きです!!私も作者様と年変わらないと思うので……羨ましいです……。 (2019年8月17日 11時) (レス) id: 8dc3cc174c (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - ありがとうございます、頑張りますね (2019年8月10日 10時) (レス) id: c1b6b5f4c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乾 巽 | 作成日時:2019年1月23日 16時