第244話:追伸 ページ8
それから、
「手でも繋いで見せつけながら行こうか」とか言う彼のジョーク(ジョーク?)をやんわりと断り、けれども横に並んで階段を降り、教室までの道を行く。
手は繋がないけど、金曜日に比べればゆっくり隣を歩ける今の状況は進歩したと言えるのだろう。
あの時周りに正体を隠したまま付き合えていたとして、生徒達は「赤司さんの恋人」探しを面白がって行ったはずだ。
そうなったら私はすぐに疲弊して、赤司さんと交際を続ける気力を失っていたかもしれない。
広まり方は最悪だったし、金曜日の周囲からの目はかなりキツかったけど、結果的に早く正体が割れて良かったのかも、と今になって思う。
人目を忍ぶ秘密の関係より、堂々と恋人と大手を振って歩ける今の方が、後ろめたくなくてずっといい。
手前に赤司さんの教室があるので、ではこれで、と言って自分の教室に向かおうとすると、パシリと後ろ手を掴まれる。
驚いて振り返ると真剣な表情。
「ごめん、ひとつだけ。
…何かあったら、どんな些細なことでもいいから、僕に教えて。」
「……はい、」
少しシリアスな空気に、何かってどんな、とも聞けず、反射的に頷く。
赤司さんがわざわざ呼び止めたのだから、私に言い聞かす理由はちゃんとあるのだろう。
私は素直に彼の言葉を受け止め、復唱する。
「分かりました。何かあったら、赤司さんに。」
目を見てしっかり答えると、彼は我に帰ったように「ああ、」と手を離す。
今度こそ手を振って分かれるけど、私の背中を見送る赤司さんの視線に、掴まれていた腕に、離れがたさを感じたのは。
色んな意味でいつもと違う赤司さんが気になっただけなのか、それとも、私が「好き」の気持ちに近付いたからなのか。
今の私にはどっちなのか判断できない。
それもまたゆっくり考えよう。
私も早く、あんな風に好意を伝えてくれる彼を、不安や心配でなく安心させてあげたいと思う。
赤司さんからの追伸を心に留め、私は筋肉痛の身体を押して教室に向かう。
…あ。
今思えば赤司さんは擽ったく触れるフリをして私を触診してた可能性に気付いた。
こういうことさり気なくやってくるから、抜け目ない人だ。
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白虎 - 赤司くんはやっぱりカッコイイですね〜 (7月21日 10時) (レス) id: eab1ac402f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mae | 作成日時:2022年4月19日 19時