貴方の腕の温もりが

温もり むそじ あまり ここのつ ページ19

＊




小さな子供のように甘える翼を、優しく抱き締めた。




肩に埋められた頭を優しく撫でる。









「・・・翼」









翼の耳元に語りかけるよう口を開いた。




翼は返事はしなかったけれど、動きを止める。




耳を傾けているみたいだ。









「今日は、甘えたい気分？」









そっと、囁くように翼に言った。









「・・・うん、すごく、甘えたい」









掠れた声ですがるように答える翼。




私はそんな翼をギュッと抱き締めた。









「・・・甘えられるって、なんか良いね」









ふふ、と笑みを漏らしながら翼を強く抱き締める。




翼も少し笑って鼻にかかった声で答えた。









「なに、それ・・・」









　









　









この時間、この瞬間。





私と翼しかいない この空間は、優しさに溢れていた。




少しのワガママと意地悪も合わせて。









　









　









「いつも、私が翼に甘えてばっかりだったよね」









私はゆっくりと話し始める。




穏やかな時間を壊さないように。









「いつも翼の悪戯に引っ掛かって拗ねちゃって」









そんなに昔ではないのに、とても懐かしく感じる。









「“ごめんね”なんて言ってるけど、からかってきて」









私は、そんななんでもない日々が大好きだった。









「・・・ずっと拗ねてるフリしてた」









「・・・え、フリだったの？」









少し驚いたように聞く翼に、笑って答える。









「そうだよ。翼、焦ってたよね」









目を細めて思い出す。




なにも知らなかった日々を。




当たり前だった日々を。









『ねぇ、アーヤ。これ見て』









『え？ なにこれ・・・わぁっ！』









『フフッ、ハハハッ、フ、フフッ』









『ちょっと翼！』









『ごめんごめん、可愛かったよ』









『・・・翼なんて知らない』









『・・・アーヤ、怒った？』









『知らない』









『アーヤ、ごめんって』









『知らない』









『・・・彩』









『・・・なに』









よく翼からビックリ箱を渡されてたんだっけ・・・




謝りながらからかってくるから、少しだけ拗ねてやった。




・・・でも、名前呼ばれたら負けてたんだよね。









「・・・アーヤ、名前呼ばれるの慣れてなかったよね」








翼の問いかけに、私は静かに頷いた。

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