貴方の腕の温もりは

温もり ななつ ページ7

翼がいた、あの時。




翼と私の関係が変わった、あの瞬間。




あの時間は忘れることが出来ない。




忘れられない。忘れたくない。




大切な、大切な思い出。




瞳を閉じればいつでも蘇ってくる。




だからいつも、それに頼ってきた。




翼のいない、辛くて苦しい現実を忘れるために。




いつも、過去に取りつかれていた。









今の私は、前を向けない。




前に進めない。









翼のいた時間を振り返っていて




翼のいた時間に戻ろうとしている。









何度、願った事だろう。









　









“時間を戻したい”









　









でもそれは、出来るはずもなく。




進めたくないのに時は進んで。




過ごしたくないのに翼のいない世界を過ごしている。









何をしても笑えなくて。




何をしても楽しめなくて。









KZの皆と会っても辛くて。




カフェテリアでひとつ空いた空席を見て悲しくなって。




皆に心配かけて。









私はいつからか、こんなにも翼に依存していて。









　









「た、すく・・・」









　









あの頃は名前を呼べばすぐに返事をしてくれたのに。









　









「翼・・・！」









　









今では何度呼んでも答えてくれない。









　









「好きだよ・・・」









　









“好き”と言ったら抱き締めてくれたのに。









　









「・・・うっ、うぅ」









　









今では抱き締めてくれない。




「うぅ・・・っ」




寒くて、寒くて。




貴方の温もりを感じたくて。




自分で自分を抱き締めても、貴方の温もりには敵わなくて。









「翼・・・。戻ってきてよ・・・」









私の声が、まだ暗い部屋に響く。









　









「もう一度、抱き締めて・・・」









　









朝、外では日ノ出を迎える。




カーテンの隙間から光が差す。




私は光から隠れるように窓に背を向けた。









そしてまた、目を瞑る。









現実から、逃げ出していく。

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