温もり はたち あまり ここのつ ページ29
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「今日、用事とか何もなかった?」
翼の病室に向かう途中、お母さんが聞いてきた。
「いえ。たいした用事じゃないので、大丈夫ですよ」
そう伝えると、翼のお母さんは申し訳なさそうに謝る。
「ごめんなさいね」
私は慌てて首を横に振った。
「いえ、本当にたいした用じゃないので・・・」
翼に比べれば、どんな用でもたいした事はない。
そうこうしていると、翼の病室に着いたようだ。
「ここよ」
翼のお母さんが立ち止まった場所は、327号室。
四人部屋のようだけれど、翼以外の名前がなかった。
一人だけなんだ・・・
「四人部屋なのに、他の人がいないのよ」
翼のお母さんが少し笑って、扉をノックする。
「・・・どうぞ」
中から聞こえてくる、翼の声。
それだけでも涙が出そうになる。
翼のお母さんがこっちを向いて、囁いた。
「じゃあ、ゆっくりしていってね」
え?
「ふふ。私は邪魔だと思うから」
翼のお母さんは優しく笑うと、来た道を戻っていく。
「え、あのっ・・・!」
後ろ姿に声をかけようとするけれど、もう姿が見えなくなってしまった。
速い・・・
「入っていいですよ」
お母さんの去っていった方向を見つめていると、中から翼が呼び掛けてくる。
ここで入らなかったら、逆に迷惑だよね・・・
恐る恐る、扉を開ける。
「し、失礼します・・・」
扉を閉めて、顔をあげる。
「アーヤ・・・」
翼の体は、上半身が起こされている状態だった。
目は見開かれていて、固まっている。
「う、ん」
ぎこちなく返事をしたけれど、どこに行けば良いのか分からず立ち尽くす。
すると翼がクスリと笑って、口を開いた。
「こっちおいでよ」
翼の言葉に頷いて、近くに寄る。
側に置いてあった椅子に腰掛けて、翼を見た。
そこには、いつもの翼がいる。
私と一緒に過ごしていた、翼が。
ALSだなんて、とても信じられなかった。
「ごめん」
翼は、私が座るや否や突然謝ってきた。
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ミラゴン - もう、感動して涙が止まりません。こんなにも感動する話は、こんなにも涙が止まらない話は初めてです。改めて恋、友情、そして、命について、考えさせられるお話ですね。また更新されるのを心待ちにしています。 (2019年2月25日 20時) (レス) id: 5ed9be59f6 (このIDを非表示/違反報告)
Kokone♪(プロフ) - ありがとうございます!では、載せますね。お返事ありがとうございます。 (2019年1月15日 20時) (レス) id: 1acdcbf3ab (このIDを非表示/違反報告)
ニコ(プロフ) - Kokone♪さん» Kokone♪様、初めまして。わぁ、お誘いいただきとても嬉しいです!全然構いませんよ。わざわざ報告していただきありがとうございます! (2019年1月15日 19時) (レス) id: d18177599f (このIDを非表示/違反報告)
Kokone♪(プロフ) - smireさん、はじめまして。私、kokone♪申します。こちらの作品を、『泣けるお話、集めてみました。【探偵チームKZ事件ノート】』という私の作品に載せたいのですが、よろしいでしょうか。本当に泣けるお話なので、是非とものせたいです。お返事、待っています。 (2019年1月15日 17時) (レス) id: 1acdcbf3ab (このIDを非表示/違反報告)
smile - クローバーさん» クローバーさま、コメントありがとうございます。時には更新をしなかったり、一度に大量更新したりと不規則でしたが、ついに続編までいけました…(汗) 応援ありがとうございます! (2018年3月27日 15時) (レス) id: d18177599f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:smile | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Niko-hp/
作成日時:2018年2月23日 18時