その笑顔は ページ34
「私が思い出せてるんだとしたら、まちがいなく天馬くんのおかげですね。天馬くん様々です」
「……いつまでその呼び方、続けるつもりなんだ？」
「え？」
司が問うと、Aは不思議そうな顔をして聞き返した。彼が何を言いたいのかわからないという表情をしている。
「寧々も、お前からの苗字呼びは距離を感じるみたいで寂しがってたぞ」
「そっか……んー」
困ったように眉を下げ、考え込むA。暫くうんうん悩んだ末に、Aはゆっくりと唇を開いた。
「……司、くん？」
「そうだそれだ！ やはりその呼び方が一番しっくりくるな」
「ご、合格ですか」
「及第点だな。敬語だって本当は必要ないんだぞ」
Aの頭を撫でながら言うと、彼女は照れくさそうに笑う。
「……夢にまた、あなたが出てきたんです」
しばらく司の手を受け入れていたAだったが、やがてぽつりと呟いた。
「内容はまた言わないつもりか？」
「な、内容もなにも、本当になんにもしてないんですってば」
「本当に本当か？」
「……」
疑いの目を向けると、彼女は視線を逸らす。明らかに何か隠し事をしている様子だ。
それでもめげずに見つめ続ける司に彼女は根負けしたようで、顔を赤く染めながらぼそりと呟いた。
「キス、しました」
「……二回ともか？」
「い、いえっ今回は、他のみんな――鳳さん達もいて、同じ場所でなにか話してるみたいでした。よく覚えてないけど……」
彼女の言葉を聞いて、司は思い当たる節があったようにハッとする。
Aが夢で見た内容は、実際にセカイでAが司と過ごした時間と同じように考えられたためだ。
「夢を見ることで、セカイのAの持っていた記憶を取り戻しているというのか……？」
「？ ごめんなさい、よく聞こえませんでした」
「いや、独り言だ気にするな」
司が首を横に振ると、「変なつかさくん、ですね」と言ってAは笑った。その笑顔は司がよく知る彼女と同じもので、彼も自然と笑みを浮かべる。
「早く退院できるといいな」
「はい、ありがとうございます」
病室を出て、廊下の窓から外を見やる。空には雲ひとつなく、澄みきっていた。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
