まさか ページ33
「まだ、あと二週間は入院しなくちゃいけないそうです。私もう元気なのに」
揺れるカーテンの隙間から覗く空を眺め、Aは呟いた。
「仕方ないだろう、検査に引っかかったんだから」
「でも引っかかったって言ったって、ほんのちょみーっとだけ調子悪いとこがあるだけじゃないですか。しかもこの症状、普通の人なら入院するレベルじゃないって」
「オレは毎日来てやるから、そう拗ねるなって」
「拗ねてない。天馬くんに毎日お見舞いに来てもらうのが申し訳なくて嫌なんです」
ぷいっと顔を背けるA。その頬は膨らんでいて、まるで小さな子供のようだ。
司は苦笑しつつ、「心配することはないぞ」と言う。
「昔からこうして病院に赴くことは多かったからな。慣れているんだ」
「む……私もお見舞いには来る側だったんですけど」
「そうだなあ、ははは――待てお前今なんて言った？」
Aの言葉に違和感を覚え訊き返すと、彼女はきょとんとした顔で見つめ返してきた。
「……昔のことだぞ？ 二年以上前のこと」
彼女が事故で失った記憶は、房江と暮らすより前の記憶。司とともに咲希のお見舞いに来ていたことも、失くした記憶のうちに入るはずなのだ。
司の指摘を受け、Aは目を丸くさせる。数秒間固まった後、口元に手を当てて「ほんとだ……」と声を上げた。
「まさか、徐々に思い出せているのか！？ ではA、誰のお見舞いに来ていたかは思い出せるか？」
興奮気味に身を乗り出し訊くと、Aは少し考える素振りを見せた後、探偵よろしく人差し指を立て答える。
「天馬くんのご家族の方ですね」
「おお！よくわかったな！」
「妹さんで……たしかお名前は――」
記憶喪失の状態であれば答えられないような事柄をピタリと言い当てていく彼女を期待の眼差しで見守れば、彼女はさらに続けた。
「花凜さん？」
「違う！！ (声優さんだから)違わないけど違う！！」
「じゃあ正解は？」
「オレの妹の名前は『咲希』だ！」
「…………ん〜？」
司の主張に、首を傾げるA。どうやら完全に思い出せたわけではないらしい。
だが、確実に近付いている。司は嬉しくなり、思わずガッツポーズをした。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
