夢を見た ページ32
「なあA」
えむとの会話が終わったタイミングで声をかけると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「はい？」
「記憶――まだ戻らないか？」
「……ごめんなさい」
申し訳なさげに俯く彼女に、「謝ることではないぞ」とフォローを入れる。
セカイのAがいなくなった今なら、彼女の持っていた記憶が元に戻ってもおかしくない。そう考え試しに訊いてみたのだが、結果はこの通りであった。
「いったい何が原因だって言うんだ……」
「うーん……あ」
何か思い当たる節でもあったのか、Aは声を上げた。
「何かわかったのAちゃん！？」
「いえ、ただ思い出したことがあって」
「……なんだ？ 言ってみろ」
促すと、彼女は躊躇いながらも話し始めた。
「最近、夢を見たんです。天馬くんが出てきました」
「オレが？」
「うわ」
露骨に嫌そうな声を上げた寧々だったが、類は「興味深いね」と言って続きを促した。
「……。言わなきゃダメですか？」
「できれば教えてほしいかな」
「二人で、いました。それだけです。何もして、してないです」
「してたんだな」
「し、してないです！！」
顔を真っ赤にしながら否定されてしまえば、これ以上言及はできない。
彼女がこれほどまでに必死に隠そうとすることなのだから、無理矢理聞き出すような真似はしないほうがいいだろう。相当気になるのも確かだが。
「……まあ、記憶を取り戻すための方法なら追々考えていけばいい。まずは退院出来るようになるまでしっかり療養することだな」
「でも私、別に入院するほどの症状が残ってるわけじゃ」
「休め」
「……はい」
若干食い気味で言うと、Aはしゅんとして返事をした。
「さて、そろそろ僕たちはお暇するとしようか」
「そうだね。えむ、帰るよ」
「えーっ！ もっとAちゃんとおしゃべりしたい！」
「……退院出来たら、もっとできますよ？」
「――ほんとに！？」
「はい」
「約束だよ！ 絶対だからね！！ いい夢見てね！」
「ふふ。鳳さんも」
ぶんぶん手を振りながら病室を出ていくえむに続き、司達は部屋を出る。
「また来る」
「はい！ ありがとうございます」
笑顔で手を振ってくる彼女に応えつつ、病院を後にした。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
