救われない ページ27
『わたしがいるから、オリジナルのわたし――Aは苦しみ続ける。このままじゃダメなんだよ』
「なに……どういうこと？ こっちのAは今医務室で休んでるから大丈夫なんじゃないの？」
寧々は困惑した様子で呟く。するとAは腕で涙を拭い、目を伏せて言った。
『偽物のわたしが、本物に影響を及ぼしてる。……わたしが消えなきゃ、本物は救われないの。だから、お願い。……どうか、本物のAを助けてあげて……』
「消えるって、そんな……！」
悲痛な声で叫ぶえむに、Aは静かに首を振る。
『悲しい顔させて、ごめんね。その分本物のわたしを謝らせていいから』
「……おい、さっきからどうしてこっちのAは苦しみ続けてるって言い切れるんだ？ 様子を見なきゃわからないだろう」
司の問いかけに答えることはせず、Aは『……様子を見に行くなら、わたしはセカイにいるね』とだけ言って消えた。
「……」
「……」
「……片付けは後でもできる。とりあえず、医務室に行ってみようか」
沈黙を破った類の一言で、四人は舞台裏から出て医務室へ向かった。
医務室の扉を開けると、ベッドに横になっているAの姿があった。
房江が付き添っており、司達に気づくと会釈する。
「あぁ、皆さん。わざわざ来てくださったんですね」
「あの、Aは……」
「っ……！」
司が尋ねると、Aは苦しげに眉を寄せて布団を握りしめていた。その様子を見た司達は、何か良くないことが起きていることを察する。
「……朝は何ともなかったのに、さっきからずっとこんな調子で……」
「何か、思い出せそうな気がして、頭の中に映像が浮かんでくるけど――すぐにそれが真っ黒に染まって……頭が、割れそうに、いたい……」
「Aちゃん、ゆっくりでいいよ。深呼吸しよう？」
えむがAの手を握るも、彼女は頭を押さえて辛そうにうめいている。どうやら相当苦しいらしい。
司はしばらく考え込むような仕草を見せたあと、口を開いた。
「……少しの間席を外すぞ」
「どこ行くの？」
「トイレだ」
「……わかった」
寧々に答えてから、司は医務室を出た。
それから人気のない場所まで移動すると、ポケットからスマホを取り出して『セカイはまだ始まってすらいない』を再生した。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
