お前がいてくれれば ページ28
眩しい光に包まれ、気がつくと司はワンダーランドのセカイにいた。
「Aはどこだ――?」
辺りを見回すが、それらしき姿はない。
仕方ないと思いつつ歩き出すと、ようやくベンチに腰掛けているAを見つけた。
空を駆けるジェットコースターを見上げ、どこか遠くを見るように目を細めながら微笑んでいる。
思わず立ち止まり、Aに見惚れてしまった。
――綺麗だ。そう思った。それと同時に、司は胸の奥が締め付けられる感覚を覚えた。
「……司くん」
不意に声をかけられ、ハッと我に返る。声の主はもちろんAだった。
「一人で来てくれたってことは――あっちのわたしのこと、助けようとしてくれてるんだよね」
「……」
相好を崩して問いかけてくるAに、彼は何も答えることができなかった。
自分がここに来たのは、そんな理由ではないからだ。
「さあ司くん。心の準備はできてるから、あの短刀を――」
「! っ、無理に決まってるだろ! オレはお前を傷つけることなんてできない!!」
「それじゃダメなの! 今すぐにでも、本物のわたしを救わなきゃいけないの!! 司くんだってわかってるんでしょ!?」
必死の形相で訴えるAに、司は何も言えなかった。
彼女の言う通り、司は理解していたのだ。
ここで彼女を抹消しなければ、現実世界のAが救われないことを。
だがそれでも、目の前の少女を傷付けることなどできなかった。たとえそれが自分のエゴであっても。
「こ、こんなの使うものか……!」
「司くん?」
一応携えてきていた短刀を壊してしまおうとした司だったが、Aに釘を刺されてしまってはもうどうすることもできなくなってしまった。
俯いて黙り込んでしまった彼に、Aは困ったように笑う。
「司くんは本当に……本当に優しいね」
「……お前がいてくれればオレはそれでいいのに」
しまったと、そう思った頃にはもう遅い。
思わず口から零れ出た本音に、Aは一瞬目を丸くする。かと思えば、今度は少し怒ったような表情で彼を見た。
「向こうのアレもわたしなんですけど?」
「うぐ……」
この上なく簡潔な正論に、司はぐうの音も出なかった。
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時