始まりの風(19ー1) ページ23
カブトとの戦いの中、相変わらず届かない高みにいる兄の背中に微かな焦燥を覚えつつ、穢土転生を解くための印を結ばせている兄の後ろ姿を眺めていた。
あの時手が届いたような気がしたのは、手加減と病のためだったのだろうか。
悔しいような、腹立たしいような。
……少し、嬉しいような。
そんな複雑な思いが胸の中でのたくっている。
「ゆっくりしている時間はない。
……だが、少しなら話せる。今ならなんでも教えてやる。
何を聞きたい?サスケ」
印が結ばれ、放たれる柔らかな光に目を細めている最中にそんな声が聞こえた。
昔と変わらない、穏やかな声。
「……なんで、」
「なぜ?」
「あんたたちは、オレを許すんだ」
この兄も、ソラも。
なぜ自分を許すのだろう。
許すことはひどく難しいことだ。
自分が他者を憎む立場になった時初めて痛感した。
そんな難しいことをあの二人は平然とやってのける。
優しいから、とかで済ませられるなら簡単だった。
けれどそれだけではないような気がしているから、こうしてわだかまりを消せないまま持ち続けている。
「……許す、ということはそれ以前に罪を犯したということだ」
ぽつり、と呟きが耳に届いた。
それはざわめきの中では消えてしまいそうな程の小声だった。
一言一句聞き漏らさないように耳をすませる。
「オレは誰も頼らなかった。そして、ソラも。
これは紛れもない罪だ。誰かを頼っていれば、もしくは信じていれば……きっと、違う道はあった」
じゃり、と土を踏む音が聞こえる。
前を見ると、背中を向けていたはずの兄がこちらへ向き直っていた。
こちらを見る兄の顔は昔と変わらず、優しい。
「お前が罪を犯したとするなら、それは元々オレたちの身から出た錆であり、お前のせいではない。
そもそも、オレたちはお前を憎んでいないんだ。
……だが、お前が何かを憎むことをもう止めはしない」
「え?」
間抜けな声が口からこぼれた。
てっきり、いつものようにもう憎むな、と言われると思っていたのだ。
「言っただろう。
もっとお前を信じていればよかった、と。
お前が両親を、そして、うちは一族を……変えることが出来たかもしれない」
ゆっくりと兄がこちらへ近寄ってくる。
「道が違えば、確かに前に立ち塞がるかもしれない。
だが、頭ごなしに止めることはもうしない。
お前たちの伸び代は、不可能を可能にすることができる」
爪先が当たりそうなほど目前にまで迫り、兄は立ち止まる。
285人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミホ(プロフ) - もう更新されないんでしょうか?続きめっっっちゃ気になるんですが… (2月17日 4時) (レス) @page32 id: 9767c8e410 (このIDを非表示/違反報告)
エト - 更新…もうないですか、ね? (1月3日 23時) (レス) @page32 id: 53a5d8cca3 (このIDを非表示/違反報告)
チエ(プロフ) - 更新楽しみに待ってます!!頑張ってください (9月22日 20時) (レス) @page32 id: 0340e8ceef (このIDを非表示/違反報告)
エト - 更新いつまでも待ってます (7月2日 1時) (レス) @page32 id: 9ac7eba60a (このIDを非表示/違反報告)
紗菜 - 更新、楽しみに待ってます。無事完結したら、BORUTOに続いて欲しいです。 (2022年12月11日 17時) (レス) id: c2a2213ca9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ