始まりの風(12) ページ14
目が覚め、外を見るとまだ空には月がのぼっていた。静かに溜めていた息を吐いて、少し憂鬱になった夢を思い返す。
そこでは彼と自分が殺し合っていた。
……そう、きっと自分と彼は一歩違えば殺し合っていたのだ。
自分がうちはを恨んでいたら。
彼が木ノ葉を憎んでいたら。
そんなたった一つの小さな可能性。
自分が恨まず、そして彼が憎まずを選択したこの世界において、これから先、どのような未来に収束していくのだろうか。
彼は一族を苦しめた木ノ葉を、そして家族を殺した自分を許してくれた。だからこそ自分は彼の隣に再び戻ることが出来る。
差し出した手を、きっと取ってくれる。
そして私も彼が手を差し出したなら、その手を取るに違いない。
早く彼に会いたい。
もう一度、彼の穏やかな笑みを見ながらとりとめもない話をしたい。
そんな思いが、いつも胸に穿たれていた。
例え忘れようとしても、穿たれたことによってできた穴がじくじくと痛むように存在を主張し、いつもいつも忘れきることができなかった。
でも、その痛みは不快ではなかった。
彼も同じ痛みを抱えているという、確信のような何かがあったから。
胸元からかつて渡された青い彼岸花の髪飾りを取り出し、じぃっと見つめた。大事にはしていたのだが、やはり飾りの細かい部分が砕けたり、花弁がいくつか折れて失われてしまっている。
紅ももうほとんど残っていない。あと1回か2回分あればいいところだろう。
ふと思い出す。
そういえば、自分から彼に何かあげたことはあっただろうか。
……なかったような気がする。
幼い時からいつも彼にもらってばかりだ。
彼に会う前に何か渡せるものを見つけよう。
きっと何を渡しても喜んでくれるだろうが……だからこそしっかり選びたい。
「……あいたいなぁ」
いつまでも色褪せない思いと記憶は自分の心をいつも揺さぶり、そして癒してくれる。
自分が最後まで人であれたのはいつも彼が記憶の中で寄り添ってくれたからだ。
あの子しかいなかったらきっと自分は闇に落ちていただろう。
あの子は守る相手だから。
守るためならなんだってしてしまうだろう。
守ってくれる彼がいたからすんでのところでおしとどまれたのだ。
自分は皆が思うような強い人間ではない。
ただの弱い、一人の小娘でしかない。
それでも自分なりに頑張った。
そして、これからも。
忘れられない顔に思いを馳せながら、自分はいつの間にか、再び眠りに落ちていたのだった。
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ミホ(プロフ) - もう更新されないんでしょうか?続きめっっっちゃ気になるんですが… (2月17日 4時) (レス) @page32 id: 9767c8e410 (このIDを非表示/違反報告)
エト - 更新…もうないですか、ね? (1月3日 23時) (レス) @page32 id: 53a5d8cca3 (このIDを非表示/違反報告)
チエ(プロフ) - 更新楽しみに待ってます!!頑張ってください (9月22日 20時) (レス) @page32 id: 0340e8ceef (このIDを非表示/違反報告)
エト - 更新いつまでも待ってます (7月2日 1時) (レス) @page32 id: 9ac7eba60a (このIDを非表示/違反報告)
紗菜 - 更新、楽しみに待ってます。無事完結したら、BORUTOに続いて欲しいです。 (2022年12月11日 17時) (レス) id: c2a2213ca9 (このIDを非表示/違反報告)
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