人には愛されたいけど鬼には愛されたくなかった。/肆【鬼滅の刃】

Prologue＊＊零藤の兄 ページ1

「───十一時のニュースをお伝えします。○○県××市でAAちゃんが行方不明になり、今日で半年が経ちました」




付けっ放しになったテレビから妹の名前が聞こえ、A晴夜は顔を上げた。

画面には笑顔でピースサインをする妹の写真が大きく映し出される。
あれは確か、妹の所属する野球部が市大会で準優勝になった時の写真だ。



半年前、晴夜の妹、Aは行方不明になった。
いつも通り自室で寝ていた筈のAが突然姿を消したのだ。


野球一筋である妹が家出したとは思えなかったので、すぐ母が通報して警察による大捜索が行われた。


始めの頃は警察やマスコミが毎日に家に押しかけて来たが、彼女が部屋を出た形跡も誰かが侵入した形跡も一切無いこともあり、捜索が進展せず、この事件に関するニュースの数も減ってきた。


近所に住む祖母が「神隠しだ。Aは神隠しにあったんだ」と騒ぎ立て、怯える雪翔を慰めたのも記憶に新しい。


神隠しならまだマシだ。

もし、警察が痕跡を見つけられなかっただけで、Aが誘拐されていたら。
半年も探しているのに見つからないなら、もしかしたらAは、もう……



嫌な想像から目を逸らすように、テーブルの上に置かれたコーヒーを飲み干す。

一時間程前に母が淹れてくれたコーヒーはすっかり冷めてしまい、お世辞にも美味いとは言えない味になっていたが、そんなのどうでもよかった。




「ねえ、兄ちゃん」



不意に、背後から声がした。
弟の雪翔だ。

とっくに寝たものだと思っていたが、どうやらまだ起きていたらしい。


「どうした雪翔、もう十一時だぞ」
「今……夢に姉ちゃんが出てきた」


何だ、そんなことか。


晴夜は思わず安堵の溜め息をもらした。
怖い夢を見て眠れないのよりずっといい。


「どんな夢だ？」
「姉ちゃんが泣いていて、俺はずっとそれを見ていることしかできなくて……でも、突然俺の目の前に狐のお面を被った知らない二人が現れるんだ。その内の一人が俺に手招きして……」


それは相当なホラーじゃないか。
晴夜は思わず弟の顔を凝視したが、雪翔は構わず続ける。


「着いて行ったら、俺の声が姉ちゃんに届くようになって、俺は泣いてる姉ちゃんに必死になって話しかけるんだ。……話した内容は覚えてないけど」
「……そうか」

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