【銀魂】鉄格子に誓いのキスを【坂田銀時】

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「また来たの？囚人くん」


俺の頬の傷に女の細い指がそっと触れる。
チリっと走る痛みに思わず身を引いた。


医務室に入るには目に見える外傷が必要だった。

だから、俺は
見た目が一番悪そうな男にわざとぶつかり
悪態をついたところ、簡単に引っかかった。

殴られるのはさすが痛いが監視の目もある。
大怪我する前に大男は取り押さえられた。

その後は想定通りだ。


「もう。男はなんですぐ喧嘩するかなァ」


女がぶつぶつ文句を言いながらガーゼを切り始めた。

前も大喧嘩があっただとか殺人未遂まで行ったとか
聞いても無いのに喋り続ける。

「まぁやり返さなくて正解だったな。
やり返してたら懲罰房行きだったよ」

「懲罰房って何されるんだ？」

「縛りつけられて看守達のサンドバック。
奴ら、医者がいることを良い事に
立てなくなるギリギリまで徹底して痛めつけるんだ。
あの男もじきにここに運ばれて来るよ。正直、大迷惑」

「ひでぇな」

あの男に対する僅かな罪悪感。
でも、殴った方が悪い。


「ここじゃ普通だ。脱獄がバレたときの方が酷かった」


大きな声を出しそうになり、慌てて口を閉じた。
慎重に声のトーンを調節しないと。


「脱獄した奴がいるのか？」


「いるよ。大抵は監視システムに阻まれて諦める奴が多い。
けど、一人だけ煙幕で逃げきろうとした囚人がいてね」


リクライニング付きのチェアーがくるりとこちらを向く。


「ウチから薬品を盗んで調合したらしい」


トンと片足で床を蹴り、一瞬で距離を詰められる。

「足を折られて、そのまま衰弱。ジ・エンド、だ」


めでたしめでたし、とでも続きそうな明るい声色。


「なんで助けてやらなかった」

答えの代わりに突然押し付けられた消毒液。

痛いと目で抗議すると、女が首を傾げる。

「なんでって、それを覚悟の上での脱獄だ。
仕方無いとしか言いようが無い」

治療を再開し、真新しいガーゼを貼り付けられた。

「はい、いいよ。
あとついでに……その」

「紅茶、だろ？」

口ごもる言葉を引き継いでやると
嬉しそうに顔を上げる。

「すぐ淹れるからね」

待ち望んでいた台詞に俺は内心ほくそ笑んでいた。

「別に“急がなくても”いいからな」

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