第百六十六話 ページ17
「何を、やってる、んですか! こんなところ、ほかの人たちに見られたら……!」
「だからドア閉めて外から見えなくしただろ」
「だからって……!」
ぐ、と先生はさらに強く私を抱きしめる。
顔から火が噴きそうだ。手の行き場がなくて、ただ嫌に力が入り空中で固まってしまう。
「癒しが欲しいんだよ、癒しが」
「な、何か別の方法だってあるのに……」
「俺はこれがいいの」
額をお腹に押し付けられているせいで、先生の顔が見えない。だけどそれは同時に先生も私の顔が見えないってことで、よかったと一瞬胸をなでおろした。けどよくよく考えれば、私が顔を真っ赤にしたところなんて何度も見すぎて、彼にとっても今更だろう。
私にとっても、今更だ。
「……覚えてるか?」
「なに、をですか?」
そのまま会話を始めやがる先生に、私はあきらめて自分の両腕を体の横に戻した。
「初めてこうやってお前を抱きしめたとき、お前俺突き飛ばして逃げたの」
「っ……!」
「今度逃げられたら、俺傷つく」
「……そんなこと言われると否が応でも逃げたくなるじゃないですか」
「お前時々Sっ気出るよな?」
先生が笑って、その振動が抱きしめられてる私にも伝わってくる。
アホ毛みたいに立っている彼の後ろ髪がふよふよ揺れててなんだか可愛い。
「なんで逃げたの、あの時」
「……それは」
「あの時も結構傷ついたんだけど」
「だって、その時はただの先生と生徒だったじゃないですか!」
必死で言い訳をする。傷つけたのはわかってる。だけど、先生だって、軽率だったと思うのだ。
「好きも嫌いもわからないうちに、そんな急に迫られたら、誰だってびっくりしますよ!」
「……それは、俺のせいか」
「全部先生のせいです!」
ふん、とそっぽを向けば、ようやく私の体が解放された。
先ほどまで抱きしめられたぬくもりが急に消えて、私は少し息を吸う。
「じゃあ今は逃げねーの?」
その言葉に、つい先生のほうを見てしまう。
あの日とよく似た、獣のように細められた瞳と陰が差した表情。じわり、と指先が少しだけ汗ばんだ。
「こ、答えを、知ってるくせに……」
「ん、知ってる。意地悪したくなっただけ」
先生のよく冷えた手のひらが私の頬を撫でる。触れられた瞬間、びくりと反射的に震えてしまった。
こんな甘い雰囲気には慣れてない。砂糖を蜂蜜で溶かしたみたいな、こんな空気。大切なものを見るような目つきに、背筋がぞわりと震えた。
「……触るな、ばか」
「照れんな、馬鹿」
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ステラさん» うわー嬉しいです!幸せだと言ってもらえることこそが幸せです!本当に励みになります!本当にありがとうございます!! (2022年2月5日 23時) (レス) id: 5d704cea99 (このIDを非表示/違反報告)
ステラ - 面白すぎて最近読み始めたのにもうここまできちゃいました!!!めちゃくちゃドキドキしてます!!素敵なものが読めて幸せです! (2022年2月2日 23時) (レス) id: 3475edfef8 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - 彩華さん» ツボ!!!!!うれしい!!!!!!更新遅くて本当に申し訳ございません。励みになります。頑張って更新します〜!! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - Amamiyaさん» ありがとうございます!亀更新にもほどがありますが、完結させず放置することは絶対ございませんので、たまに覗きにきてやってください…!応援、励みになります! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - やばい。ツボすぎます!一気読みしちゃいました!更新頑張ってください! (2021年4月1日 22時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2019年5月19日 17時