第七十二話 ページ23
指導室に備えられてあった椅子に堂々と座る先生を見下ろすような様相で立つ私に、流石にあの自由奔放自信満々唯我独尊の笹塚先生ですら苦笑を浮かべずにはいられなかったみたいだ。
指導室中に流れる嫌な雰囲気に呑まれることなく、私はひたすらそんな視線を先生に送り続けた。
「……今週の土曜の話をしようと思ったんだけどな」
今週の土曜。
それは、こないだ約束したテーマパークのことだろう。
それに眉をピクリと動かし反応を示した私に気付いたのか、先生は嘆息して続ける。
「テスト期間があるのすっかり忘れててな。 お前もこんな調子だし、来週の土曜に回そうと思ったんだ。 テスト期間終わっての打ち上げも兼ねて……」
そこまで言うと、先生の言葉はどんどん尻すぼみになっていく。
口をへの字に曲げた私の顔色を伺うように、言葉をゆっくりゆっくり選ぶ。
まるで、私の機嫌を伺っているかのようだ。
「もし、嫌なら俺をやめて他のやつ誘え。 知崎がダメなら、朴月や柳瀬だっているし、生徒会長も頼める。 別に俺じゃなくていいだろう」
そう言いながら、先生はゆっくりとした動作で立ちあがる。
そして有無を言わさぬような雰囲気を纏いつつ、私の横を通り過ぎる。
今では触れ慣れたその手が、まるで水を切るような動きで私の頭を撫でていく。
だがそれも、すぐに離されてしまった。
「……悪かったな」
消え入りそうな声で、先生は謝罪を紡ぐ。
その言葉とともに、指導室の扉は閉ざされ、先生の姿は部屋の中から消えた。
気配でそれを察知した私は、力の抜けた人形のように床に座り込む。
顔を膝の中に埋め、深く深呼吸をした。まだ呼吸が出来ていることが驚きだ。
同じ空間にいるだけで苦しくて、息が出来ないほど苦しくて、切なかった。
先生、その謝罪は何に向けての謝罪ですか?
あんな風に触れたことについての謝罪なんですか?
私がどうして今、怒ってるか……ちゃんと理解していますか?
目頭が熱くなって、涙が零れそうになる。
寸でのところで唇を噛み、涙をこらえた。
「っぅ……」
もう泣きたくない。
泣くのは弱い証拠で、私は強い子だから。
先生。
先生、
先生――
なんで苦しいのか分かりません。
なんで泣きたいのか分かりません。
貴方に触れられた箇所が熱を持っていたんです。
貴方に触れられただけで恥ずかしくて、でもあったかかったんです。
この気持ちの名前を教えてください。
笹塚先生。
きっとこれを教えられるのは、貴方だけです。
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ayakaさん» Rの要素ございました? (2020年6月25日 14時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
ayaka - [R]つけてください (2020年6月24日 20時) (レス) id: 6bf9ec98ce (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ゆうきさん» あぁああうれしいです!全力できゅんっと来るような描写をさせていただきます…無駄に多く長い小説をすべて読んでいただき感激のあまり…いや本当に感激です!(語彙力が足りない)ありがとうございます、頑張らせていただきます!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - いか糖さん» 本当に長くなりそうなので飽きないって言ってくださってうれしいです……!ワンパターン・テンプレばかりの小説だというのにそんなことを言って下さるなんて…!頑張ります!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - コメント失礼します!先生かっこよすぎませんか!?一話から続けて読んでいますが、先生の一つ一つの動作にキュンキュンさせられてます!こんな先生本当にいたらいいのにな…更新がんばってください!楽しみにしています! (2017年6月11日 15時) (レス) id: 6c9139a3b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2014年11月14日 20時