８５: 完璧なシナリオ ページ35
ーーー英智side
「英智は、アイドルと二足の草鞋を履くなんてしないと思ってた。でも……納得はいくんだ」
意味を分かり兼ねて眉を顰めると、昔のような柔らかい微笑みを浮かべて言われる。
「テレビでアイドルを見た時…俺、アイドルになれたらなぁって言っただろ。英智あの時なんて言った？」
英「…『兄さんがなるなら、僕も』って……覚えててくれたんだ…」
頷いた彼を見て、また涙がこみ上げる。
兄はアイドルに憧れた。なら僕が、兄が輝くに足る場所を作れば良いのではないかと思った。その上で自分もアイドルを目指していれば、何処かで会えるかもしれない、と。
その時から僕は希望を持ち続けてきた
兄は死んでなどいない、何処かで笑っているはずだと。
喉がぎゅっと苦しくなって、泣かないようにとそれを飲み込んだ。
英「じゃあ最後に……どうして夢ノ咲で、僕から隠れてたの」
「それについてだけど……思ってる人いるよなぁ？何で去年、英智を止めなかったんだって」
さっきよりも声を張って言う姿に、どこか決意じみたものを感じて手を握りしめた。
「じゃあまず聞くよ。去年のことを全部把握してる訳じゃ無いけど……あれ以上に良い結末ってあったと思うのか？」
その言葉に、周りはシーンと静まり返る。俯く者もいれば言葉が詰まったように顔を歪める人もいる。
それを見回して彼は続けた。
「英智に俺がいることを明かしていたら、きっとあの結末は迎えなかった。なぜなら…」
目を細めて僕を見据えた彼は、どこか険しい表情で言葉を紡いでいく。
「英智が俺に、絶対的な信頼を寄せているから」
北「どういう意味だ…？」
「英智。例えば俺が去年『本当にそれで良いのか？可哀想だと思わないのか？』って聞いても決心が揺らがなかった自信は？」
自信に満ち溢れた表情で答えを迫られると、本当のことしか言えなくなる。
その真っ直ぐな視線から逃げるように、顔を逸らした。
「俺は言っちゃってたと思うよ。『それは五奇人が余りにも不憫だ』ってな。だから隠してたんだよ。俺が居たら革命が起こらないから」
その説明に、誰も何も言えなかった。余りにも筋が通っている、完璧なシナリオだ。我が兄ながら、恐ろしいとさえ思った。
同じ色の瞳を見つめて、そういえば、と思い出す。
『僕たちだけは…大多数の幸せを願って、叶えてあげないとね』
そう言って諭してくれたのは、兄さんだった。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2019年12月14日 3時
