94.好きなのはあなただけです。 ページ4
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赤信号になる。
不意に大野さんが喋り始める。
夜に紛れて、ふたりの逢瀬。
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智「…二宮になんか言われてない？」
「え？」
智「…言い寄られてないか俺は心配だぜ？」笑
「…言い寄られてないですよ」
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なぜ嘘をついたのか。
なんで咄嗟に嘘をついてしまったのか。
私にはまるで謎。
…安堵しきる大野さんの横顔を見て胸がミシミシと痛む。
でも事実なんて言えやしない。大野さんの悲しい顔なんてこれ以上見たくない。
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不意に外を眺める。
巡る街路樹を見れば、葉っぱは無くて
冬が本格的に始まってるかと思わせる。
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智「…そっか、言い寄られてないか。」
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でもね、と口を開く大野さん。
その顔は、見れなかった。
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智「会社の前で、二宮がAちゃんのこと探してたけど？」
「…え」
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ちゃんと見た大野さんの顔はこれとなく切なかった。
目を離せば消えてしまいそうなくらい。
…静かに目を細めて、行く先の道を見つめる。
そんな視線の先を、私も見つめる。
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智「…二宮はAちゃんのことが今でも好きなの。気をつけてもらわないと俺だって困るよ？」
「…好きな人は、…好きな人は…」
智「…」
「大野さんだけです。」
智「ふふ」
「一番好きなのも、一番近くにいたいと思える人も大野さんだけです…」
智「ありがとう。Aちゃん。」
「…」
智「俺も好きだよ。」
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ようやく交わってくれた大野さんの目は温かくて優しくて
私の全てを包み込んでくれるような瞳だった。
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恥ずかしくなって左側にそっぽを向く。
静かに車のシートに顔を埋めたら、隣から静かに笑い声が聞こえる。
そしたらひとこと、恥ずかしがってんのかよって小さく言って、
…ひとつ、頭を撫でられる。
それが心地よくて、しばらく惚れ惚れしていた。
それだけの小さな幸せ。
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「大野さん」
智「んぁ？」
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シートに顔を埋めて5分くらいで、つまんなくなって大野さんの方に体を向ける。
信号に捕まってないから大野さんは前をずっと見てるんだけど、
そんな横顔ですら綺麗。
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「…家に帰ったら、抱き締めてもらってもいいですか？」
智「…Aちゃんなら返事は知ってるでしょ？」
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作者名：成瀬
| 作成日時：2017年12月13日 22時
