3.兄は偉大 ページ3
「で、結局帰って来れたんだ。良かったね」
少し離れたところで籠った兄の声が聞こえる。
別に兄が何かで口を覆っている訳では無い。私が耳を布団で覆っているからそう聞こえるだけだ。
正確には布団に顔を埋めている。
「…」
「それで、なんでそんなに落ち込んでるの」
「……根暗な自分が、嫌すぎて」
喉に詰まった言葉を吐き出すとほんの少しだけ胸が楽になった。
「いつもの事じゃない?」
…傷口に塩を塗られた。
いそいそと布団の中へ潜り込もうとすると、兄は笑って布団を剥がそうとしてくる。
「ごめん、ごめん」
「…平謝り」
「本当に悪かったって」
お互い布団を掴みあって、視線は直線で固まる。
兄の顔をジッと見つめていると、悲しさを超えて何だか腹が立ってくる。
「私、兄さんに生まれたかった」
「かなり唐突」
幼い私にとって兄はいつだって完璧の象徴のような存在だった。
母に好かれ、父に好かれ、祖父母に好かれ、友人に好かれ、異性に好かれ…等々。兄さんの隣から見る兄さんはいつも誰かに好かれていた。
私はそんな兄を羨ましいと思っている。
それは昔と変わらず今もだ。
周りに好かれる人間になれば、人と話す時に過剰な緊張をするなんて悩み、抱えずに済んだと思うから。
「…兄さんで生まれてくれば、少しは自分にもっと自信を持てたかなって」
「…俺になってもあんまり変わらないよ。特にいいこともないし」
「……変わるよ」
「……変わらない」
「俺の顔で生まれてきたって、俺の性格で生まれてきたって何にも変わらないって。AはAでしかないんだから」
正論だ。
ぐうの音も出ない。
「というか、A。自分に自信を持ちたいと思い始めたの?こんだけ落ち込んでも、今までそんなこと言ってなかったよね」
「…」
「何で?」
眼力の強い兄の顔を見ているとフラッシュバックするのは”とある男の子”の顔。
兄の顔と彼の顔は到底似ていないけれど、黒い瞳を見ていると彼を思い出してしまうほど脳に焼き付けられてしまっている。
そうだ。
私は早急にこの緊張による痛みを治さなければならないのだ。
「___穏やかでのんびりとした、私の昼休みを取り戻すため」
「…何のことかはさっぱりだけど、Aが俺の妹ってことは分かった」
…まさか、天然だと言いたいのか。
絶対に私は天然じゃない。
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ぴ(プロフ) - 展開がまだ分からないんですけどワクワクしてます〜!更新停止中?みたいなのでしばらく更新ないのかもしれないのですが、気長に待ってます😌😌😌 (7月1日 0時) (レス) @page14 id: d5c63dc535 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナナシノゴンベ | 作成日時:2023年3月29日 1時