6.ここだけの話 ページ6
その後、彼が口を開くとこはなかった。
何度か横目で見ることもあったけど、視線が合う前に私が逸らしていたので目が合うことも無い。
逃げないでと言われてしまった手前、簡単に走る去ることも出来なくなってしまって、私の視線は弁当の底に張り付いた固まった米粒に固定された。
腕時計の針は怠けているのか、昼休みの終わりを告げる時刻までまだ距離があった。
本当は時計の針が壊れているだけで、実際は数分後かにチャイムがなるのでは…?
そんなことを考えた瞬間、長針がひとつ隣に移動した。
…やっぱり、上手く言って教室に帰ることが一番みたい。
無理難題すぎる。消えたい。
というか、呼び止めたってことは私に何か言いたいことがあるってことなのかな。
それとも内心は昨日逃げたことに怒ってたから、衝動的に引き止めただけ?
顔見て逃げるなんて失礼中の失礼だったと思うけど、彼なら告白の言い逃げで置いてけぼりにされることの経験があるだろうし、きっとそこまで気にしないって自分に言い聞かせてたのに…違うのならば、なんて謝罪をすれば許して貰えるのだろうか。
何だかお腹が痛くなってきた気がする。
「あのさ。他にもこういう場所、学校にある?」
「え」
そう聞かれて、反射的に顔が上がる。
黒い目が合うと再びギュウと心臓が縛り上げられた。苦しい。もう本当に。
私の苦しみなんて全く知らない彼は小さく手招きをする。
「…ちょっと耳を貸してほしい」
「…」
____この人は私の心臓をボンレスハムにする気なのか…?
アホすぎる言葉が頭を通り過ぎたが、彼の顔には下心のようなものはなく、どちらかと言うと真剣な顔。
多分鉄よりも重い腰をゆっくりと移動させている途中、私の頭の中は「勘弁してくれ」の文字で埋められていた。
私と彼の間には二人分の距離が空いていて、自分で埋められた距離は一人分半。
その半分は自分の手を耳に当てることで埋めた。
これがその時の私の限界であり、早く彼の要件を終わらせることがこの状況から逃げる最適解だと思っていたからだ。
彼は不格好な私を見て一瞬呆気に取られた顔をした後、目を細めて笑う。
私の手の横に触れるか触れないかの距離で手を添えた彼は、小さな声で話を始めた。
「実はここだけの話なんだけど…しばらくの間、静かに過ごせる場所を探してるんだ」
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ぴ(プロフ) - 展開がまだ分からないんですけどワクワクしてます〜!更新停止中?みたいなのでしばらく更新ないのかもしれないのですが、気長に待ってます😌😌😌 (7月1日 0時) (レス) @page14 id: d5c63dc535 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナナシノゴンベ | 作成日時:2023年3月29日 1時