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先生と早く別れるため、Aの鞄を掴み、逃げるように教室を出た。
(うわぁ、先生に全部話してもうた……)
まあ、話さざるを得ない状況だったので、仕方ないが。広まらないことを祈り、先生のことを信頼することにした。
2階から屋上へ上がった。結構な道のりだが、彼女はここまで走ったのだろうか。ただでさえ体が弱いし体調を崩しやすいのに。なんてどの立場が心配しているんだろう。きっと余計なお世話と思われてしまう。
最上階まで上がった。少し汗が滲み出てくる。
重たそうな鉄の扉の前に立つ。この扉を開ければあの2人に会うことができるし、話すことだって簡単にできる。
「はー、なんかしんどっ」
なんて軽い調子で声を出して扉の前にAの鞄を置く。あいにく扉の向こうから2人の話し声なんて聞こえない。少し強い秋風の音が微かに聞こえるくらいだ。
そのまま、静かに階段を降りていく。足は通り慣れた正門へと向かっている。
ローファーに履き替え、正門まで歩く。
(…………さて、帰りましょか)
眩しすぎる夕陽に目を細めつつ、足を踏み出す。が、自然とその足は止まる。頑固な自分にため息と苦笑いが零れた。
「……これは、あくまでも直感やから」
この後、Aが1人で帰ったら、きっとAが壊れてしまう。
それは、10年間空漠たる関係を築いてきた俺の直感だ。当たるに決まっている。
(ほら、当たった)
「…………セ、ンラ……?」
ウルウルと涙を溜めたAと、目が合う。もう、志麻くんとは話が終わったみたいだ。それに、こんなにも泣いているんだからきっといい風には終わっていないだろう。
Aは今志麻くんのことで頭がいっぱいだ。これ以上彼のことを考えて、泣いて、を繰り返せばAは壊れてしまう。1人で考える時間を作れば、もっともっと壊れてしまう。
だから、
「A、一緒に帰ろか」
それを口実に一緒に帰ることを、どうか許して欲しい。
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もちち(プロフ) - コメント失礼します。他サイトにてこちらの作品と同じ題名、同じ内容の小説を発見致しました。何回も見返したのですがやはり文章も同じで気になったのでコメントさせて頂きました。プリ小説というサイトで連載はされていますか、? (2023年4月18日 0時) (レス) id: 65f0ff2c55 (このIDを非表示/違反報告)
LiLi Ka(プロフ) - すっっっごく面白くて!大好きです!一気読みしちゃいましたw (2020年5月24日 16時) (レス) id: ef0b88e85e (このIDを非表示/違反報告)
林檎 - 完結おめでとうございます!この作品が好きすぎてもう何回も何回も見直しています! 最後ら辺は、子を見守る母のような気持ちになりました(笑)ほんとにお疲れ様です! (2020年5月7日 16時) (レス) id: aa4022e14b (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 完結おめでとうございます!この話の二人が永遠に見てたいくらい好きなのでこの2人のその後みたいな話短編集とかで欲しいです、、 (2020年4月2日 0時) (レス) id: 4f83e9d9b1 (このIDを非表示/違反報告)
七つ子(プロフ) - お疲れ様でした!この作品は私にとって、お気に入りの中のお気に入りでした!新作も読みます!ありがとうございました! (2020年4月2日 0時) (レス) id: e81a79aa4e (このIDを非表示/違反報告)
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