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「A、一緒に帰ろか」
優しく微笑んだ彼に少し安心感を覚えたが、自分自身の心情を全て包み込んでしまうその笑顔はやはり未知で怖いと思った。
ただ、志麻くんのことで頭がいっぱいで、ぐちゃぐちゃな私にとっては今は安心感の方が勝る。
「……うん、帰ろ」
恥ずかしいくらいの鼻声。止まらない涙に嫌だな と感じた。明日、きっと目腫れちゃうよねとか、くだらないことを考える。
「なにがあったか……は、言わんでもええよ。なんとなく分かってるし」
そう言いながら眉を下げた彼は、私をあやす様に背中をさすった。その優しさがまた涙を誘い込むってこと、彼は分かっていないだろう。止まりかけていた涙がまた溢れてきた。
歩いていた足は止まって、夕日の眩しい光が作り出していた影も止まる。ワンテンポ遅れて、私の影よりも大きい影も止まる。
耐えきれなくなり、しゃがみ込んで涙を流した。
「A、!」
すぐに駆け寄ってくれたセンラに、やっぱり安心した。しかし罪悪感が込み上げてくる。私が泣いているときは、いつもセンラが慰めてくれているから。
「わたし、分かんない、ごめんなさい」
「うん」
「志麻くんと会えない、って分かってるのに、会いたい、ごめん、なさい」
「謝ることなんか、1つも無いで」
ぽん、と頭を撫でられる。薄く笑った彼は、少し悲しそうに見えた。
「俺は志麻くんのこともAのことも大切で大切で、仕方ないんよ。志麻くんにも志麻くんなりの決意があるねん。そこを、どうか受け入れたって欲しい。志麻くんのことが大切なAなら、簡単にできるやろ?」
今からとは言わんよ。それはきっと難しいことやろうから。と付け足した。
すごく、胸に響いた言葉だった。志麻くんにも志麻くんなりの決意がある。確かにそうだ。何も考えていないように無邪気に笑う彼にも、ちゃんと考えがある。決意がある。
「Aがもし壊れてしまうんやったら、立ち直られへんのやったら、俺を利用して。代わりとして使ってほしい。Aが辛いんは、俺も嫌やから。幸せになってほしいねん」
「ば、か。利用なんか、する訳ないでしょ。本当にありがとう。楽になった気がする」
彼の気持ちが伝わって、胸がぎゅうっと締めつけられた。心からありがとうと思った。
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もちち(プロフ) - コメント失礼します。他サイトにてこちらの作品と同じ題名、同じ内容の小説を発見致しました。何回も見返したのですがやはり文章も同じで気になったのでコメントさせて頂きました。プリ小説というサイトで連載はされていますか、? (2023年4月18日 0時) (レス) id: 65f0ff2c55 (このIDを非表示/違反報告)
LiLi Ka(プロフ) - すっっっごく面白くて!大好きです!一気読みしちゃいましたw (2020年5月24日 16時) (レス) id: ef0b88e85e (このIDを非表示/違反報告)
林檎 - 完結おめでとうございます!この作品が好きすぎてもう何回も何回も見直しています! 最後ら辺は、子を見守る母のような気持ちになりました(笑)ほんとにお疲れ様です! (2020年5月7日 16時) (レス) id: aa4022e14b (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 完結おめでとうございます!この話の二人が永遠に見てたいくらい好きなのでこの2人のその後みたいな話短編集とかで欲しいです、、 (2020年4月2日 0時) (レス) id: 4f83e9d9b1 (このIDを非表示/違反報告)
七つ子(プロフ) - お疲れ様でした!この作品は私にとって、お気に入りの中のお気に入りでした!新作も読みます!ありがとうございました! (2020年4月2日 0時) (レス) id: e81a79aa4e (このIDを非表示/違反報告)
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