愛しの君から見た君 ページ10
「私が君に恋をした日、本当は死のうって思ってたの」
・
「あの子大丈夫かなー」
「大丈夫でしょー。あ、コレ美味しそうじゃない?」
「わかるー!」
隣の人の話が耳に入って、その子を認識した。道の端、蹲る姿が賑やかな街から浮いている。誰もが心配はするが、声はかけない。結局他人事なのだろう。あの子は微動だにせず、そこにいた。まるで、あの子だけが世界から切り取られているみたいだ。
そっと近づいてみる。意識はあるようだ。時折鼻をすする音が聞こえる。泣いているのか…?大丈夫だろうか。声をかけようとして、止まる。
ガバリ、彼女が顔を上げた。泣いていたからか、目が充血している。でも、涙は止まっていた。一点を見つめる彼女の瞳には何も映っていない。ただただ、諦めの色をしていた。
「もう、いっか」
ポツリ、呟いた。途端、背筋がゾワリとして寒気が走る。
「君、大丈夫?」
無意識に声が出た。声をかけたことで僕の存在に気づいた彼女は僕を見上げた。彼女の瞳は、深海のように暗い。今のこの子を一人にしてはいけない、何故かそう感じた。立てれるように差し出した手と僕の顔を交互に見て、不思議そうに首を傾げた。
彼女の行動に痺れを切らした僕は、君の手を取って立ち上がらせる。蹲っていた丸まった小さい背中と同様に、立っても彼女は小さかった。まるで、何かに追い立てられていたように、小さい存在だった。
「大丈夫…?」
「……綺麗」
一言、君が言った。視線は間違いなく僕に定まって、見つめ続ける。
「え?」
「君、綺麗だね」
「はい?」
君の顔が綻んだ。このまま消えてしまいそうなくらい、儚い笑みだった。
「なんで声をかけたの?」
「かけたのって…君が蹲ってって心配したから…?」
「心配?」
「そう、心配」
「そんな事で心配するの…?」
「え、そんなことじゃないでしょ。普通、心配するって」
「……君は、本当に綺麗だね」
キラリ、君の瞳が光った。陽の光に照らされていたからか、儚い雰囲気は消し飛んで、輝いて見えた。
「君に、会いに来ていい?」
「は?」
「いや、会いに来るよ」
「待って、なんで会いに…?」
「君が好きだから」
「え、は?え?」
「君が好きだから、また会いに来るよ。またね、愛しの君」
「愛しの君!?」
君はそう言って、笑った。もう、暗い瞳ではなかった。
・
「思えば君は、初めて会った時から突然だったね」
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薆 - もう最高すぎです。読んでて胸がいっぱいいっぱいで、自分に重ねてしまいました。言葉選びも胸に刺さります。泣きそうでしたが、書いてあった「人工呼吸」を聴いて号泣しました笑 (2021年3月28日 16時) (レス) id: 5a8be2f728 (このIDを非表示/違反報告)
海夜海月 - 最高です。泣きかけました。これからも頑張ってください。 (2021年3月24日 1時) (レス) id: 6a4cb75c85 (このIDを非表示/違反報告)
エタニティ(プロフ) - 一気に全部読んじゃいました。この作品に出会えて幸せです! (2021年2月23日 15時) (レス) id: 5dea0f434c (このIDを非表示/違反報告)
七夏(プロフ) - 面白いです!続きを楽しみに待ってます! (2021年1月21日 23時) (レス) id: 716685a2fc (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 最高です! (2021年1月19日 0時) (レス) id: b3889a91c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2021年1月16日 21時