近い未来のお話 ページ11
偶に、これは夢なんじゃないかと想うことがある。君が手を差し伸べてくれた事も、君の笑顔も、君の体温も、全て都合の良い夢なんじゃないかと。両親の怒りに触れないように背中を丸めて身を潜めていた私の幻。
・
「A」
ぼーっとしていた意識が鮮明になる。朝日に照らされて照れくさそうに笑う君は、現実の君。ぼろぼろ涙が溢れてきて、慌てたように拭う君の指は暖かい。
「大丈夫!?痛いところとかある?」
「違う、違うの」
駄々っ子のように首を振る私に、困ったように眉を下げた君は大きな両手で私を抱きしめる。とくん、心臓の音が聞こえて、幻なんかじゃないと自分に言い聞かせた。
「私、こんなに幸せで良いのかな」
君の体温に包まれて目覚めて、君と同じ朝日を浴びて、君とご飯を食べて、君と同じ時を過ごして、同じベッドで眠って、君が私を好きでいてくれて。
そう言ったら、君は嬉しそうに笑った。良いに決まってるなんて、口付けと共に言葉を贈ってくれた。
「僕ね、Aことが好きなんだ」
「私も、順平君が好きだよ」
「うん、だからさ、」
僕と同じ苗字になって。
数秒、沈黙。言葉の理解にかかった時間は約3秒。その間に止まっていた涙は理解した途端、また溢れ出す。さっきよりも、勢いがいい。
「私が、君の苗字を名乗っていいの…?」
「うん、嫌?」
「ううん、嬉しい」
ちゅ、重なった唇はいつも優しい。ふと、繋いでいる手に違和感を感じた。左手の薬指に固い感触。これは、と思わず君を見ると、悪戯が成功したと言わんばかりの顔で、君もお揃いの指輪を撫でた。
「明日、一緒に婚姻届を貰いにいこう。それと、先生と悠仁たちに挨拶も行かなきゃ」
「君のお母さんにも挨拶しなきゃね」
「うん、多分草葉の陰で酒盛りでもしてるよ」
「喜んでくれるかな」
「喜ぶに決まってるよ。だって、僕が選んだ君なんだから」
いつまでも手を繋いでいよう。離れ離れにならないように、お互いを見失わないように。辛い時も、嬉しい時も、死ぬ時も、絶対に放さない。
君は僕だけの人だし、僕も君だけの人。お互いが唯一無二の存在。かけちゃダメだよ。いつまでも、いつまでも、
お互いを呪いあって生きていこう。
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薆 - もう最高すぎです。読んでて胸がいっぱいいっぱいで、自分に重ねてしまいました。言葉選びも胸に刺さります。泣きそうでしたが、書いてあった「人工呼吸」を聴いて号泣しました笑 (2021年3月28日 16時) (レス) id: 5a8be2f728 (このIDを非表示/違反報告)
海夜海月 - 最高です。泣きかけました。これからも頑張ってください。 (2021年3月24日 1時) (レス) id: 6a4cb75c85 (このIDを非表示/違反報告)
エタニティ(プロフ) - 一気に全部読んじゃいました。この作品に出会えて幸せです! (2021年2月23日 15時) (レス) id: 5dea0f434c (このIDを非表示/違反報告)
七夏(プロフ) - 面白いです!続きを楽しみに待ってます! (2021年1月21日 23時) (レス) id: 716685a2fc (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 最高です! (2021年1月19日 0時) (レス) id: b3889a91c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2021年1月16日 21時