第五話 揚げパン ページ6
それも頭上から。
顔を上げると建物の窓の僅かな突起物に赤いローブを羽織った白髪の少女が立っていた。紅い瞳をキラキラ輝かせ面白そうにギルバードを見下ろしている
「呼んだー?」
「ずっと俺の後をつけていたくせになんの用だ?」
「あれぇ?ばれてたぁ?まぁいっか。こうして会えたんだし!」
ぴょんっと子猫のように軽やかにギルバードの前に降り立つ。そして何かに気づいたのか形の良い小さな鼻をクンクン動かして満面の笑みを浮かべた。
「揚げパンっ!」
好物のいい香りにつれられギルバードから買い物袋をひったくり、中を覗き込む。そして遠慮という言葉を知らないのか、知っていても気にしていないのか買い物袋の中に手を突っ込み、楽しそうに中を漁る。
「そっちにはない。ほらよ」
差し出された揚げパンを受け取り、買い物袋を地面に置き待ちきれんばかりに紙を破り捨て揚げパンを頬張る。嬉しそうに目を細め小さな口をいっぱい開きかぶりつく。
かぶりついた瞬間口の中に香ばしい香りと油が入り込む。外はサクッと、中はふんわりした食感。パンにまぶしてある砂糖と中に入っている新鮮で甘酸っぱいイチジクのジャムとの程よい酸味と甘味のバランス。
「あのなぁアリス、前にも言ったと思うがこの国でお前、見つかったらやばいことになるってわかってんのか?」
「ぅんっ!」
「一部の組合じゃユーグスタクトの首は賞金物だ。国に差し出せば一生遊んで暮らせる額はもらえるんだぞ?」
「知っているよー。でもただの人間相手にユーグスタクトは捕まらないわ」
呆れたように話すギルバードを鼻で笑い揚げパンに意識を戻す。
やはり揚げパンは世界で一番美味しい食べ物だ。ジャムを入れたパンを油で揚げ砂糖をまぶすなんて、発明した人の顔を見てみたいと一人満足気に頷く少女
「だったらさぁ、ギルが私を殺して首を国に持っていけばいいわ。どれくらいのお金になるかなんて人間のお金に興味はないからわかんないけど、今みたいに従者じゃなくて一生遊んで暮らせるじゃない」
「おまっ!冗談でもそんなことを言うなっ!!」
慌てて否定してくる姿が面白くクスリと笑う。
「―――ほんと、ギルって優しいねー。初めて会った時からなぁんにも変わらない。そういうところ、好きよ」
指についた砂糖と油を舐めとり、紙をくしゃくしゃに丸め空中に投げ捨てる。紙くずは綺麗な放物線を描き地面に落ちる直前に激しく燃え炭となって跡形もなくなった
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ストゥアート(プロフ) - 昔少女さん» コメントありがとうございます。更新頻度は遅いですが、楽しんでいただければ幸いです。これからもよろしくお願いします。 (2017年10月22日 14時) (レス) id: df3bdd8f8f (このIDを非表示/違反報告)
昔少女 - あなたの生み出す想像の世界を私も漂っています。 (2017年9月17日 15時) (レス) id: f6820b1fd8 (このIDを非表示/違反報告)
ストゥアート(プロフ) - エリザさん» ありがとうございます。今週は期末試験期間なのでほとんど更新ができませんがこれからもよろしくお願いします。 (2016年7月25日 20時) (レス) id: df3bdd8f8f (このIDを非表示/違反報告)
エリザ - 更新まっています(^_^)/~ (2016年7月25日 11時) (レス) id: fa956406d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ストゥアート | 作成日時:2016年7月4日 21時