月水晶２【S.S】 (ページ15)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:50,125 hit

４５ページ15

・

電子辞書片手に英単語を調べていたら金属音がした。

誰かに見つかってしまったと思い、恐る恐る振り向くと。

「……飯塚か」

なんと先生だった。

「どうしてここに？」

先生は私がいても冷静だった。

「雅紀くんのお迎えがまだだから時間潰しに……」

「そう。知ってると思うけど、ここ立ち入り禁止だから」

「その場所に先生はなぜ来たんですか？」

「……お前は俺の言葉の穴を見つけるのが上手いな」

こう言いながら先生は階段を下りて進み始めた。

「おいで」

手招きされる。
私は素直に従う。

「…………」

そこから見えたのは夕焼けに染まった小さな街並み。

「良いだろ？ここ丘の上に建ってるから屋上に来れば街が見渡せるんだよ。特にこの時間が一番綺麗。ここに立ってると悩みなんてちっぽけなものに思える」

「先生も悩みますか」

「ああ。悩みばかりだ」

先生の目はどこか遠くを見つめていて、そう言う横顔は儚くてやっぱりこの人の傍にいたいと胸が締め付けられる。

「ここ、鍵壊れてるの知られてないからこれからも入っていいよ。俺が許可する」

「先生にそんな権限あるんですか？」

「いや、ない」

先生と笑い合うことができた。
それでいい。

先生がキスしなければ、私が好きだと言わなければ、私達は交わることのない平行線を辿れるのだから。

・