選ばれし者とその妹２ (ページ30)

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Story 80 ページ30

「次、A！」

　Aは先程から自分にとって一番怖いものは何かと考えていた。先に思いついたのはヴォルデモートだった。彼に命を奪われた人間は数知れない。彼がいれば誰が命を落としてもおかしくはないだろう。家族や友人の誰が死んでも……。

　ボガートはAの前で姿を変えた。生徒たちは息を呑み、女子生徒が短く悲鳴をあげる。

「あれって……」

　一人の男が立っていた。顔のほとんどは焼けただれ、両目は霧がかかったように白く濁っている。クィレルはゆっくりと右手を伸ばした。

　途端にあの時の絶望が脳裏を支配する。助けられなかった。彼を、死なせてしまった。

　Aは背中に強い痛みが走るのを感じた。凍りつくような冷気が爪痕から身体中に広がっていく。
　
「リディクラス」

　唱えた声は驚くほどに淡々と、感情のないものだった。クィレルが倒れ、砂のように崩れる。

　Aは足早に後ろの人だかりに入り、残された服がパーバティの前で巨大な蛇に変わる様子をぼんやりと見つめた。

「あれってクィレル先生だよな……？」

「もしかして、彼はあんな死に方を……？」

　ルーピン先生は心配そうにAを見つめていた。クィレルというのがかつて防衛術を教えていた教師の名だということは彼も知っていたからだ。

　その間にもボガートはパーバティによってびっくり箱へと変えられていたが、ハリーの番が来ると彼の前で回転し、一体の吸魂鬼へと姿を変えた。

「こっちだ！」

　突然、ルーピン先生が庇うように間に立ちはだかる。不思議なことに、次にまね妖怪が変身したものは満月だった。それを見たAは何かを悟り、声に出さずに呟く。人狼、と。

「リディクラス！」

　ルーピン先生が面倒くさそうに呪文を唱えると月は白いボールへと変わる。

「今だ、ネビル！」

　指名されたネビルは最初とは違い、決然とした表情で進み出る。白いボールが消え、スネイプが現れる。だが、

「ハハハ！」

　ネビルが笑い声を上げた途端、ボガートは破裂し、いく筋もの煙となって消えた。

　その後、ルーピン先生はボガートと対峙した生徒にそれぞれ五点(ネビルは二回やったため十点)を与え、質問に正しく答えたハリーとハーマイオニーにも加点した。

　授業が終わった後も皆は興奮冷めやらない様子だった。今までで一番楽しい授業だ。間違いなく誰もがそう思った。