Story 45 ※修正 ページ46
「A……」
自身を呼んだ彼の声は微かに震えていた。片方の手が荒々しく背中に爪を立て、空いた片手が優しく頭を撫でる。
それほど深手は負っていないのかもしれない。Aがそんな希望を抱いた瞬間――糸が切れたようにクィレルは倒れた。
「クィレル先生……?」
彼はただ、虚空を見つめていた。
まだ手遅れじゃない。Aが自身に言い聞かせた直後、誰かが肩に手を置いた。
「A」
「ダンブルドア先生! ああよかった! クィレル先生を助けてください!」
「A、彼は……」
「お願いします、先生! まだ間に合います! このままじゃ、このままじゃ死んじゃう! クィレル先生が……」
「落ち着くのじゃA。落ち着きなさい。もうどうすることも出来ない。クィレルはもう――助からん」
もう既にクィレルの呼吸が止まっていたことも、その目が何も映していないことも、Aは信じていなかった。ハリーを殺そうとしていたのが彼だということを頑なに信じなかったように。
*
Aは見知らぬ部屋の階段に腰掛けていた。薄暗く、沢山の書物が並んだ棚に囲まれている。
「気がついたかの?」
Aが座っている階段と、もう一つの階段に挟まれた場所に木製の机と椅子があり、その前にダンブルドア先生が立っていた。どうやらここは校長室のようだった。
「ダンブルドア先生。あの……私、ここまでちゃんと歩いてきましたか?」
「あの地下室からここへ来てしばらくの間、君は心がどこかへ行ってしまったようじゃった。このまま戻ってこないのではないかと心配していたのじゃが……」
戻ってきてくれてよかった、と彼は言った。
「ハリーは……?」
「医務室で眠っておる。あのまま君がクィレルから引き離していなければあの子は死んでいたじゃろう」
クィレルの名を聞いた瞬間、堰を切ったようにAの目から涙が溢れ出した。
「わ、私……ハリーの意識がなかったことにも気づいてなかった……クィレル先生のこと、ばかりで……あの人はハリーを殺そうとしたのに……でも……」
「A、君は間違っていない。それほどまでにクィレルを慕っていたのじゃろう……。それに君はちゃんとハリーのことも助けようとしていた」
Aの脳裏をあるものがよぎる。瀕死のクィレルの身体を離れていったヴォルデモートの魂が。
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作者名:闍弥嵩 李 | 作成日時:2020年1月2日 17時