［金神］Snapshot. (ページ1)

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1.ツバイソページ1

「先輩に似合うと思って」

椿世はブランドロゴの入った小さな袋を自分より大きな背丈の人間に手渡した。椿世を見下ろす男は「なにこれ」と怪訝そうに袋の中を見て、特徴的なチョーカーに目を瞬かせる。

「どこで買ってくんのこういうの」

「先輩そういうの好きでしょ。僕知ってます」

「俺もペットデビューか」

「え！飼い主立候補させてください」

身を乗り出し、椿世はチョーカーを眺める相手の顔を覗き込んだ。男は椿世に軽く笑いかけて、ありがとう、とチョーカーを首につけて見せた。

▷▶︎▷

椿世Aが映像制作研究会というサークルに入ったのはありふれた理由だった。
一目惚れした人間を追いかけてきた、そう、典型的な物語の導入のように。

しかしありふれていなかったのは、椿世は"自分から人に恋愛感情を抱かない"性質であり、一目惚れと形容するそれも実際は"崇拝"に近いものであった。
付き合おうと思わないからこそ誰よりも好きで、愛おしいと思う──世の中はこれを「推し」と呼称することも椿世は知っていたが、推しと言うには友人の距離感を欲していた。

使い古された動機を持って入会したサークルだが、一丁前にプレミアを弄って動画編集の作業をしていた椿世にLINEの通知がくる。
求人広告の公式アカウントから来たおすすめアルバイトだ。居酒屋、引っ越し、ナイトワーク……

「時給より内容派です〜」

「前みたいにバーテンやれよ」同学年の友人が囃し立てる。

「合わないからって3ヶ月で辞めたの知ってるだろ」順位をつけられ金を貢がれるために努力することを割り切れなかった椿世は、3ヶ月計10回の出勤で退職した。「楽な仕事がいいなぁ」

「万年サボり思考だよな椿世って」

図星を突かれて視線を逸らす。
何事にも本気になったことがない。本気になって失敗するのが怖いから、取り返しのない無駄になることが怖いからたくさんの道を諦めた。
中学生の頃始めた映画制作も、映像業界に入るのは無謀だと勝手に諦めた。結果、無難に就職するために今の大学に来てサークルで活動している。

高卒で就職した友達が羨ましかった。
バンドにのめり込んで専門学校を選んだ友達も、イラストを趣味にすると決めたからこそ割り切って電子系の専門学校に行った友達も。
先生になると意気込んで大学に入った友人も。
恋に溺れて単位を落とした友達も。

その全てが妬ましかった。
自分に持っていないものを持つ周りの人間全てが。