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追憶モラトリアム 3 ページ11

「Aの頭はなんだか撫で心地がいいね〜」
「なにそれ意味わかんない手どけて」
「もう少し〜」
「お前らなにやってんの」
「あ、Aの頭撫でてんの! すっごいきもちぃよ! ほらほら! どう? どう?」
「ん〜? あ、おーなるほどなぁ、これはまあ確かに」
「待て待てなんであんたも撫でてんのやめて」
「あ、長老様ぁ〜! Aの頭撫でる〜?」
「は、お婆ちゃん!? ちょ、まってマジでまってまって」




暖かでとても幸せな、もう起こることが絶対にない記憶。
視界がぼやけ、何かが僕の頬を伝った。

「ぁ、れ……?」

「A……?」

ぽたりと落ちた雫が床を染めていく。
止めどなく溢れるそれが、自分が流している涙だと気づくのに少し時間がかかった。
ぐしぐしと涙を袖で拭き、溢れないようにする。

止まれ、とまれ、とまれよ。

「っなん、で……とま、な……」

溢れたそれはまるで洪水のようだった。
止まらない、止められない。
詰まる呼吸に肩を揺らして、嗚咽を飲み込もうと背中を丸める。
それでも、引き攣った声は治ることを知らないらしい。

「A」

「ゃめっ、いま、よぶっ、な」

嗚咽を零しながら訴えれば、降ってくる声が止んだ。

ああどうしよう、本当に止まりそうにない。
思い出すものが悪すぎた。
なんで、今になって、あんな……あの時のことなんかを。

随分と時間が経ってしまっているから、もう大丈夫だとタカを括っていたんだけど……どうやら無理だったらしい。
声を殺すように手を口に持っていく。
それでも止まらない、というか更に酷くなった嗚咽。

呼吸がやり辛い。
きつい、くるしい、つらい。
そう思いながら肩を震わせていると、滲んだ視界に鮮やかな色達が映った。
さっきまで見ていた色達とは違うけど、見たことがある。

……目の前の男はしゃがんだのか。
思ったと同時にふわりと僕を包んだ香り。

その原因が僕の目の前に立っていた男だと分かるのに、数秒かかった。
後頭部と背中に回された大きな掌。
肩口に固定され、息を吸えば彼の匂いが鼻を擽る。
あったかい、なんて言葉がぼんやりと浮かんだ。

「大丈夫だからな。大丈夫、大丈夫」

子供をあやすように、一定のテンポを保って背中を優しく叩かれる。
落ち着かせるような声色。
大きく見開かれた瞳から、また涙が零れた。

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みかん(プロフ) - 了解しました!続きも楽しみに気長に待ってます! (2019年5月28日 13時) (レス) id: 7884fe9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - あいさん» お待たせ致しました。リクエスト作品が出来上がりましたのでお伝え致します……! (2019年5月28日 10時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - みかんさん» 申し訳ありません、先に白龍の分ができあがりましたのでこちらを先に公開致します。続きはもう少々お待ちください……! (2019年5月28日 10時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - あいさん» 了解です! 他のリクエストも消化しつつになるので少し遅れますが、ご了承くださいませ…… (2019年5月1日 14時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
あい - そうだったのですかこちらこそすみません (2019年5月1日 11時) (レス) id: bcb6bd7e00 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ユズヒ | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年3月1日 2時

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